もう一度会えたなら
「いらっしゃい! すぐ片付けますのでお待ちください」

 口髭を貯えたダンディーなマスターが言うと、真っ赤な花柄エプロンがよく似合う女性店員が手際よくテーブルを片付け、にこやかに案内された。
 ベルベットのソファーが生暖かい。先程入れ違いになった作業着姿の男性が座っていたのだろう。店内は満席だった。
 女性店員が、写真付きのメニューを美紀の前に広げる。

「モーニングメニューはA・B・Cがあって、飲み物はここから選んでね。おすすめはBセットかな」

 街中のカフェでは聞くことのない、気さくでアットホームな接客に、自然と笑みがこぼれた。

「じゃあBセットを、ホットコーヒーでお願いします」

「Bでホットコーヒーね。嫌いなものはない?」

 思いがけない問いかけに、美紀は一瞬言葉に詰まり、こくりと頷いた。女性店員のゆったりとした話し口調がそう感じさせたのか、それとも美紀の母と同年代だからだろうか、美紀はほっと安心するような感覚を覚えた。
 ロングスカートの裾を揺らしながらカウンターに戻っていく小柄で可愛らしい女性店員の後ろ姿を目で追う。
 マスターとは夫婦だろうか。カウンターの中で時折笑顔を交わしながらてきぱきと動く様子を、美紀はぼんやりと眺めていた。

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