朝を探しています

〜雅人〜

 今日は真美と別れてから初めての金曜日だ。
 
 雅人は帰り支度をしながら視線をさりげなく真美の席にやった。

 あれ以降、特に真美とプライベートな話はしていない。会社では同じ部署の上司と部下なので当然話す機会は毎日あるが、それだけだ。
 別れ際の真美の様子から、もっと自分に執着して縋られたらどうすればいいかと考えていた雅人にとっては、ほっとすると同時に正直拍子抜けだった。
 今日も私用があるからと2時間ほど前に早退している。


 様子がおかしいのは、真美よりむしろ波那の方だった。
 月曜日に調子が悪いとベッドで休んだ後、普段通りに家のことをやってくれてはいるがずっと具合が悪そうだ。食欲もないのか、日に日に窶れていっている。
 心配で何回か声を掛けたがいつも固い表情のまま『大丈夫』と言われてしまう。

 波那は滅多なことでは弱音を吐かない。
 特に自分の前では余計に気丈に振る舞うようなところがあって、それがひどくもどかしい。もっと自分を頼ってくれればいいのにと思ったことも数多くあった。

 とにかく今日は早く帰って週末は波那をゆっくり休ませよう。

 カバンを持って立ち上がったその時、カバンの中のスマホが震えた。
 
「ん?」

 出してみると悟からのメールだった。

『前に言ってた飲み会、明日とかどうだ?』

「なんだ、間が悪いな。」
 悟とは先週飲みに行ったことにしている。さすがに今週もとなるとごまかせないし、なにより波那の体調が気になる。

『悪い。嫁さんの具合が悪いから、無理だわ。また今度こっちから誘うよ。』
 会社を出ながらそう返信すると、すぐにまた返事が来た。
 歩く速度を緩めず『了解。』の文字に目を走らせたが、続く文面に思わず足を止めた。



『了解。先週も子どものことで大変そうだったからな。奥さん大事にしろよ。』



「…は?」



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