朝を探しています
〜波那〜
波那が指定したカフェに着くと、一番奥の席にさっきの女を見つけた。
無言で目の前の席に着く。
メニューを広げていた女ー真美は顔を上げて波那に問いかけた。
「注文、何にされますか? ここ、ハーブティーの種類もたくさんあって悩みますね。」
波那は一瞬だけ目を瞠ったがすぐに表情を消すと「私はコーヒーを。」とだけ答えた。
「んー、じゃあ私はハイビスカスティーにします。」
ドリンクが運ばれてくるまで2人とも口を開かなかった。
今まで声だけしか知らなかった雅人の浮気相手が目の前にいる。
波那は静かに片山真美を観察した。
栗色の髪を肩を少し越えるくらいまで伸ばし、毛先は緩く巻いている。
確か25歳ということだったが、それよりも幼く見える…のは、化粧のせいかもしれない。少し濃いメイクに感じた。
顔は小動物系の可愛いタイプだ。
小柄だが肉感的なスタイルで、波那はふと最近のテレビを賑わせている人気俳優の不倫相手を思い出した。
私とは真逆に見える。
雅人もこういうのが好きだったのか。
思わずそんなことを思い、またぶり返す吐き気を表に出さないよう押し込めた。
運ばれたアイスティーのストローにすぐ口をつけてから、片山真美は話し出した。
「この前は急に送りつけてスミマセンでした。びっくりしましたよね。でも連絡先まで書いたのに奥様から返事がないので、こちらから来ちゃいました。」
「…なぜ? 私はあなたと話したいことなんて何もないんだけど。」
「え、じゃあ気にならなかったんですか、私と雅人さんの関係。」
目を大きく開いて口に手を当てる仕草が波那にはこの上なくあざとく映った。
「…これは私とあなたの問題ではなく、私と雅人の問題だからよ。…それと、夫のことを軽々しく名前で呼ばないで。」
「あ、すみません。会社ではちゃんと斉木主任って呼んでるんですけど。外だと気が緩んじゃって。」
「会社?」
思わずつぶやいて、波那は慌てて口をつぐんだ。
「あ、まだまさ…斉木主任と私のこと話されてないんですね。私、同じ部署でお世話になっているんです。とっても優しくって、色々教えてくれるんですよ。」
「…挑発するのはやめて。…雅人とは、話をするつもりでいるわ。でもそのことはあなたには関係ないことよ。」
「どうしてですか? 私と雅人さんのこれからにも関わってくることですよね?」
「これから? こんなことをしておいて、あなたと雅人にこれから何があるって言うの。いずれ私はあなたに責任をとってもらう気でいるし、同じ会社だと言うなら会社にもこのことを伝えるかもしれないわ。」
「会社はまずくないですか? 雅人さんの仕事がなくなったら、子どもさんの養育費も払えなくなるかもしれませんよ。」
「はぁ?」
「あ、離婚したらですけど。でも離婚しなくっても、雅人さんの収入がなくなるのは痛いですよね。まぁ、奥様がそれでいいなら私は別に構いませんけど…」
無表情を保つことはできず、波那の眉間に皺が入る。
この子が何を言ってるのか、全然理解できない…
「片山さん…あなた、自分が悪いことをしたって自覚はあるの?」
「え?」
「妻がいて、子どももいる男と関係を持って。一つの家庭を壊そうとしているのよ? 世の中では不倫なんて珍しくないのかもしれないけど、だからって簡単に許されることではないの。一生消えない傷を他人につけて、ずっと恨まれることになるのよ。」
無言で目の前の席に着く。
メニューを広げていた女ー真美は顔を上げて波那に問いかけた。
「注文、何にされますか? ここ、ハーブティーの種類もたくさんあって悩みますね。」
波那は一瞬だけ目を瞠ったがすぐに表情を消すと「私はコーヒーを。」とだけ答えた。
「んー、じゃあ私はハイビスカスティーにします。」
ドリンクが運ばれてくるまで2人とも口を開かなかった。
今まで声だけしか知らなかった雅人の浮気相手が目の前にいる。
波那は静かに片山真美を観察した。
栗色の髪を肩を少し越えるくらいまで伸ばし、毛先は緩く巻いている。
確か25歳ということだったが、それよりも幼く見える…のは、化粧のせいかもしれない。少し濃いメイクに感じた。
顔は小動物系の可愛いタイプだ。
小柄だが肉感的なスタイルで、波那はふと最近のテレビを賑わせている人気俳優の不倫相手を思い出した。
私とは真逆に見える。
雅人もこういうのが好きだったのか。
思わずそんなことを思い、またぶり返す吐き気を表に出さないよう押し込めた。
運ばれたアイスティーのストローにすぐ口をつけてから、片山真美は話し出した。
「この前は急に送りつけてスミマセンでした。びっくりしましたよね。でも連絡先まで書いたのに奥様から返事がないので、こちらから来ちゃいました。」
「…なぜ? 私はあなたと話したいことなんて何もないんだけど。」
「え、じゃあ気にならなかったんですか、私と雅人さんの関係。」
目を大きく開いて口に手を当てる仕草が波那にはこの上なくあざとく映った。
「…これは私とあなたの問題ではなく、私と雅人の問題だからよ。…それと、夫のことを軽々しく名前で呼ばないで。」
「あ、すみません。会社ではちゃんと斉木主任って呼んでるんですけど。外だと気が緩んじゃって。」
「会社?」
思わずつぶやいて、波那は慌てて口をつぐんだ。
「あ、まだまさ…斉木主任と私のこと話されてないんですね。私、同じ部署でお世話になっているんです。とっても優しくって、色々教えてくれるんですよ。」
「…挑発するのはやめて。…雅人とは、話をするつもりでいるわ。でもそのことはあなたには関係ないことよ。」
「どうしてですか? 私と雅人さんのこれからにも関わってくることですよね?」
「これから? こんなことをしておいて、あなたと雅人にこれから何があるって言うの。いずれ私はあなたに責任をとってもらう気でいるし、同じ会社だと言うなら会社にもこのことを伝えるかもしれないわ。」
「会社はまずくないですか? 雅人さんの仕事がなくなったら、子どもさんの養育費も払えなくなるかもしれませんよ。」
「はぁ?」
「あ、離婚したらですけど。でも離婚しなくっても、雅人さんの収入がなくなるのは痛いですよね。まぁ、奥様がそれでいいなら私は別に構いませんけど…」
無表情を保つことはできず、波那の眉間に皺が入る。
この子が何を言ってるのか、全然理解できない…
「片山さん…あなた、自分が悪いことをしたって自覚はあるの?」
「え?」
「妻がいて、子どももいる男と関係を持って。一つの家庭を壊そうとしているのよ? 世の中では不倫なんて珍しくないのかもしれないけど、だからって簡単に許されることではないの。一生消えない傷を他人につけて、ずっと恨まれることになるのよ。」