朝を探しています
 波那が玄関の鍵を開けて入ると、奥からバタバタと雅人が駆け寄ってきた。

 まだスーツのままで青い顔の雅人に波那は表情をなくした顔で向き合った。

「…ただいま。」
「波那っ、今までどこにいたんだ。高田さんのとこ?」
「……ううん。」

 それだけを答えて洗面所に向かう波那を低い声が追いかけてきた。

「…波那…話を聞いてほしいんだ。」
「…わかった。でも、その前にお互い着替えない? 雅人は夕飯は?」
「波那は食べたの?」
「…食べてないけど…今はいいや。」
「それなら俺もいらない。…でも波那は何か少しでも食べた方が良くないか? その…最近全然食べてな…」
「気にするフリなんかいらないわ。」

 小さくなっていく雅人のセリフに反射的に突き放すように返してしまい、波那ははっとして口をつぐんだ。

「ふりなんかじゃ、」
「…着替えたらリビングで待ってて。すぐに行くから。」
「…わかった。」


 ようやく1人になって波那は大きく1つ深呼吸をした。

 感情的になっちゃダメ。そうしたらきっと言いたいこと、聞きたいことの半分も話せずに詰って終わってしまう。
 …怒りをぶつけるのは、雅人の話を聞き終わってからでいい。
 この先どうするかも…それから考えよう。
 ぐちゃぐちゃな気持ちのまま、今日結論を出すのだけはやめよう…

 頭の中に琴乃と幸汰を思い浮かべて何とか心を静めた。



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