朝を探しています
波那がテーブルに着くと、雅人が淹れたのだろうコーヒーが置かれていた。
ぼんやりと、真美と会ったカフェのコーヒーを思い出した。
「…メールにも書いたけど。今日、悟から連絡もらって。…前の土曜日、波那は悟と会ったんだな。」
「…うん。」
表情を動かさずに雅人を見つめたまま答えた波那の目の前で、雅人が頭を下げた。
「嘘ついて、外泊して…ごめん。」
「……」
「…でも、なんで嘘だと知ってること言ってくれなかったんだ? …そのこと気にして、最近おかしかったんじゃないのか?」
「…それも、あるけど…」
あの日の嘘だけではない。
その前からずっと、雅人の様子から誰かの影が見えて気になっていた。
そして、月曜日に送られてきたUSBメモリー。
ずっとずっと、苦しかった。
雅人と話すと決心してからも、苦しくて仕方なかった。
話すということは、終わらせる覚悟もいるとわかっていたから。
…なのに、なぜだろう。
波那は少しの違和感を持って雅人を見た。
『なぜ言ってくれなかったのか。』と問う雅人からは、何の重みも感じられない。
私が片山真美とのことを知ること、それで別れを切り出すかもしれないことは雅人にとってはそれほど重要なことではないのだろうか。
戸惑ったまま次の言葉を紡げない波那に、雅人は再び口を開いた。
「…波那、嘘ついて外泊して、しかも幸汰が大変な時に一人で頑張らせて、本当にごめん。…色々誤解させるようなことして、ごめん。」
「……え?」
誤解、と言ったのだろうか。雅人は。
「そりゃ、気にするな、疑うなって方が無理だよな。」
「何を…」
「でも、波那が心配するようなことは、何もないから。…実は、ずっと前から部長から誘われてる店があってさ。いわゆるそういう…キャバクラよりもうちょっと際どい店で。」
「…雅人…?」
「今までは断れてたんだけど、今回はどうしてもって押し切られて…その…最近仕事でかなり助けてもらってたりして…」
「雅人!」
波那の指が小さく震え始める。
何を…何を言い出したんだろう。この人…
「あ、いや、でももちろん何にもしてない! 終電も越したからホテルに泊まったけど、部長とだから。酒を飲みすぎてスマホもチェックしてなくて…」
バンッ
両手で思い切り机を叩いた音にびくっとして、雅人が波那を凝視した。
バンッ バンッ バンッ ドン ドン
波那はそのまま机を平手で、次第に握り込んだ拳で叩き続けた。
「波那? 波那っ⁈」
呆然としていた雅人が我に返り、波那の両手首を掴んで止めようとした。
「触らないでっ!」
「は、波那⁈」
反動で自分が椅子ごと後ろに倒れそうになる程激しく、波那は雅人の手を振り払った。
熱いものが胸を競り上がり、両目から溢れる。
波那を支配しているのはどうしようもない怒りと情けなさだった。
立ち上がって、悲鳴のような声で叫ぶ。
「嘘つかないで! こっちがこんなに苦しいのに、平気な顔で嘘なんかで誤魔化さないで‼︎」
「…は…な…」
「なんでっ…ふっ… 私がっ、どんな気持ちで今ここに座ってるとっ… ばっ、馬鹿にしてる… 」
ぼんやりと、真美と会ったカフェのコーヒーを思い出した。
「…メールにも書いたけど。今日、悟から連絡もらって。…前の土曜日、波那は悟と会ったんだな。」
「…うん。」
表情を動かさずに雅人を見つめたまま答えた波那の目の前で、雅人が頭を下げた。
「嘘ついて、外泊して…ごめん。」
「……」
「…でも、なんで嘘だと知ってること言ってくれなかったんだ? …そのこと気にして、最近おかしかったんじゃないのか?」
「…それも、あるけど…」
あの日の嘘だけではない。
その前からずっと、雅人の様子から誰かの影が見えて気になっていた。
そして、月曜日に送られてきたUSBメモリー。
ずっとずっと、苦しかった。
雅人と話すと決心してからも、苦しくて仕方なかった。
話すということは、終わらせる覚悟もいるとわかっていたから。
…なのに、なぜだろう。
波那は少しの違和感を持って雅人を見た。
『なぜ言ってくれなかったのか。』と問う雅人からは、何の重みも感じられない。
私が片山真美とのことを知ること、それで別れを切り出すかもしれないことは雅人にとってはそれほど重要なことではないのだろうか。
戸惑ったまま次の言葉を紡げない波那に、雅人は再び口を開いた。
「…波那、嘘ついて外泊して、しかも幸汰が大変な時に一人で頑張らせて、本当にごめん。…色々誤解させるようなことして、ごめん。」
「……え?」
誤解、と言ったのだろうか。雅人は。
「そりゃ、気にするな、疑うなって方が無理だよな。」
「何を…」
「でも、波那が心配するようなことは、何もないから。…実は、ずっと前から部長から誘われてる店があってさ。いわゆるそういう…キャバクラよりもうちょっと際どい店で。」
「…雅人…?」
「今までは断れてたんだけど、今回はどうしてもって押し切られて…その…最近仕事でかなり助けてもらってたりして…」
「雅人!」
波那の指が小さく震え始める。
何を…何を言い出したんだろう。この人…
「あ、いや、でももちろん何にもしてない! 終電も越したからホテルに泊まったけど、部長とだから。酒を飲みすぎてスマホもチェックしてなくて…」
バンッ
両手で思い切り机を叩いた音にびくっとして、雅人が波那を凝視した。
バンッ バンッ バンッ ドン ドン
波那はそのまま机を平手で、次第に握り込んだ拳で叩き続けた。
「波那? 波那っ⁈」
呆然としていた雅人が我に返り、波那の両手首を掴んで止めようとした。
「触らないでっ!」
「は、波那⁈」
反動で自分が椅子ごと後ろに倒れそうになる程激しく、波那は雅人の手を振り払った。
熱いものが胸を競り上がり、両目から溢れる。
波那を支配しているのはどうしようもない怒りと情けなさだった。
立ち上がって、悲鳴のような声で叫ぶ。
「嘘つかないで! こっちがこんなに苦しいのに、平気な顔で嘘なんかで誤魔化さないで‼︎」
「…は…な…」
「なんでっ…ふっ… 私がっ、どんな気持ちで今ここに座ってるとっ… ばっ、馬鹿にしてる… 」