朝を探しています
 真美とプライベートの話をするようになったのは、3ヶ月ほど前からだった。それ以前は同じ部署の同僚としての関係でしかなかった。

 離婚して働かなくてはならなくなったらしいとは、人伝に聞いていた。それなりの大きさの雅人の会社に就職が決まったのは、かなり遠縁の親戚がここに伝手があって、どうにか融通してもらえたからだとは、本人から聞いた。

 ぱっと人目を引くほどの美人というわけではないが、年齢より幼く儚い印象のその容姿は男性社員から人気があった。
 元人妻というのもポイントが高いらしい。
 男どもだけの飲み会で恒例の下世話な会話には必ずと言っていいほど名前の上がる真美のことを、しかし雅人は当初それほど意識していなかった。

 自他共に認める愛妻家で、一応同期の中では出世株。
 雅人の会社での評価は概ねそんなところだった。

 
 転機は3ヶ月前の週末の飲み会の帰り道だった。
 主任になってから、部下を連れての飲み会を月に一度ほど開いていた。誰かの祝い事があったり仕事でのミスを皆でカバーした後などに誘っていたが、強制参加ではなくとも出席率は毎回高く、いつも楽しい酒だった。

 その日の帰り、駅までの道でたまたま真美と2人きりになった。
 真美はその日、一人暮らしの自宅には帰らず、隣県の実家に帰るということだった。

「でも今からじゃ、着くのかなり遅くなるんじゃない? 飲み会に誘って悪かったかな。」
 雅人の言葉にそれまで笑顔でいた真美の顔が急に曇り、視線を雅人から外して答えた。

「いいえ。飲み会があって、嬉しかったです。斉木主任の会はいつも楽しいので。…最近、嫌なことがあったばかりだったし…」

 最後の言葉はとても小さい声だったが、雅人にははっきりと聞こえた。
「…え? 片山さん、何かあったの?」
「……。」

 しばらく待っていると、真美の歩調が次第にゆっくり、ついには止まってしまった。
 
「片山さ… え、泣いてるの!どうした⁈ 」

「……」

 俯いたまま、真美は目元を手で拭っている。
 まだまだ人通りの多い歩道で、連れの女性に泣かれている男に対する周りの目に耐えきれず、雅人はすぐそこにあったカフェに真美を促して入った。

「す、すみませ…」
 ヒック、としゃくりあげる真美が落ち着くのを待って、話を聞くことにした。




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