朝を探しています
〜雅人〜
「…波那が言う通り、俺は片山のこと…可愛いと思うようになってた。……セックスにも…はまってた、と思う。」
言いたくない。
言いたくなかった。
真美のことを好きになっていった。
波那とはしたことがなかった刺激的なセックスに夢中になった。
その裏で、家庭を大事にする男を演じ続けた。何食わぬ顔で。
雅人は今この状況においてもそんな自分を波那に知られたくなかった。
自分では、演じているなんていう意識はなかった。
本気で波那も子どもたちも愛していたから。それこそ真美と比べるまでもなかった。
でも、真美との関係にのめり込んでいた自分がそんなことを言っても信用されるわけがないことはわかっていたから、無意識にも意識的にもそこには触れずに事実だけを波那に話したのだ。
もちろん波那はそんな狡さを見逃してはくれず、雅人の真美への劣情を暴いてみせた。
だが、雅人を追い詰める波那自身が、自分の言葉にどんどん傷ついていくように雅人には見えた。
『背中から刺されるようなものよ』
あの日の言葉がまた蘇り、波那の背にナイフを振り下ろす自分の姿まで見える気がした。
「…好きだったかって言われたら……、好きだったんだと思う。…バレなければいいって、思ってた。片山と都合のいい関係を続けて、波那たちと…家族とも穏やかに暮らして…そんな生活を……楽しんでた。」
改めて言葉にすれば、自分がどれほどクズだったか痛感する。
雅人にとって真っ直ぐ波那を見ることがこんなに難しかったことなどなかった。
「…でも本当に、信じてもらえなくても本当に、俺の中では波那や琴乃たちと比べられるような好きじゃなかったんだ。
波那と別れるとか…そんなこと、一瞬でも思ったことない。…別れたくない。お願いだ、波那。別れたくないんだ。」
「…片山さんは、そうは言ってなかったわ。あなたとは、愛し合ってるんだって。」
「そんなこと…いや、そう思わせたのは俺だけど…。ちゃんと別れたんだ。家族が大事だからって。」
「子どものことは大事だから、私には彼女と別れるって言うけど、裏では関係を続けるとも言ってた。…私には、2人のことを認めてくれれば家庭は壊さないからそうしろって。…ねえ、2人で私のことを馬鹿にしてるの?」
最後の日に別れることを渋った真美が思い出される。
「馬鹿になんてしてない! 片山が何でそんなことを言ったかわからないけど、この先2人で会うことも絶対にしない!」
何を言っても波那の表情は変わらない。
逆に家族が大事だと言うごとに心が閉ざされていくようで、雅人の背を冷たい汗が流れる。
「…ごめん。ごめん! 俺が馬鹿だった。どうしようもない馬鹿で、何にもわかってなかったんだ! 波那…波那…… 許して、ほしい…。絶対、何があっても二度と裏切らない! 頼むから、お願いだから…」
はいつくばって謝ることしかできることがなかった。次に波那の口から出る言葉が怖くて仕方なかった。
しばらく雅人の許しを乞う声だけが寝室に響いたあと。
「…雅人。」
波那が口を開いた。
「…許せない。」
「…っ、は…なっ」
「…何を言われても、信じられない。今まであんなに普通の顔で嘘をついてた人なんだって思ったら…。無理だよ。」
「…っ、」
「私たちより、あの人の方が好きなんだって言われた方が…まだ信じられる。」
「…そ…なこと、言えない。死んでも、言えないよ…」
「でも、今すぐ離婚してとか…それも言えそうにないの。子どものこととか…色々、考えないとって、それはわかるんだけど、頭が全然動いてくれないから…」
『離婚』という言葉に、わかりやすく雅人の肩が跳ね上がった。
「…ちゃんと、考えたい。だから時間が欲しい。…一人になりたいけど、子どもたちを今の雅人には預けられない。…雅人に家から出て行ってもらうのも…すごく、不安。」
「…もしかして、俺が片山のとこ行くんじゃないかって…そう思ってる?」
「…うん。」
「そんなことはしない。しないけど…波那がいいって言ってくれるなら、俺はこの家にいたい。…波那が答えを出すまで、そっとしとく。だから、ここにいさせてほしい。」
雅人のその言葉に、諦めたようにも、少しほっとしたようにも見える表情で波那は頷いた。
言いたくない。
言いたくなかった。
真美のことを好きになっていった。
波那とはしたことがなかった刺激的なセックスに夢中になった。
その裏で、家庭を大事にする男を演じ続けた。何食わぬ顔で。
雅人は今この状況においてもそんな自分を波那に知られたくなかった。
自分では、演じているなんていう意識はなかった。
本気で波那も子どもたちも愛していたから。それこそ真美と比べるまでもなかった。
でも、真美との関係にのめり込んでいた自分がそんなことを言っても信用されるわけがないことはわかっていたから、無意識にも意識的にもそこには触れずに事実だけを波那に話したのだ。
もちろん波那はそんな狡さを見逃してはくれず、雅人の真美への劣情を暴いてみせた。
だが、雅人を追い詰める波那自身が、自分の言葉にどんどん傷ついていくように雅人には見えた。
『背中から刺されるようなものよ』
あの日の言葉がまた蘇り、波那の背にナイフを振り下ろす自分の姿まで見える気がした。
「…好きだったかって言われたら……、好きだったんだと思う。…バレなければいいって、思ってた。片山と都合のいい関係を続けて、波那たちと…家族とも穏やかに暮らして…そんな生活を……楽しんでた。」
改めて言葉にすれば、自分がどれほどクズだったか痛感する。
雅人にとって真っ直ぐ波那を見ることがこんなに難しかったことなどなかった。
「…でも本当に、信じてもらえなくても本当に、俺の中では波那や琴乃たちと比べられるような好きじゃなかったんだ。
波那と別れるとか…そんなこと、一瞬でも思ったことない。…別れたくない。お願いだ、波那。別れたくないんだ。」
「…片山さんは、そうは言ってなかったわ。あなたとは、愛し合ってるんだって。」
「そんなこと…いや、そう思わせたのは俺だけど…。ちゃんと別れたんだ。家族が大事だからって。」
「子どものことは大事だから、私には彼女と別れるって言うけど、裏では関係を続けるとも言ってた。…私には、2人のことを認めてくれれば家庭は壊さないからそうしろって。…ねえ、2人で私のことを馬鹿にしてるの?」
最後の日に別れることを渋った真美が思い出される。
「馬鹿になんてしてない! 片山が何でそんなことを言ったかわからないけど、この先2人で会うことも絶対にしない!」
何を言っても波那の表情は変わらない。
逆に家族が大事だと言うごとに心が閉ざされていくようで、雅人の背を冷たい汗が流れる。
「…ごめん。ごめん! 俺が馬鹿だった。どうしようもない馬鹿で、何にもわかってなかったんだ! 波那…波那…… 許して、ほしい…。絶対、何があっても二度と裏切らない! 頼むから、お願いだから…」
はいつくばって謝ることしかできることがなかった。次に波那の口から出る言葉が怖くて仕方なかった。
しばらく雅人の許しを乞う声だけが寝室に響いたあと。
「…雅人。」
波那が口を開いた。
「…許せない。」
「…っ、は…なっ」
「…何を言われても、信じられない。今まであんなに普通の顔で嘘をついてた人なんだって思ったら…。無理だよ。」
「…っ、」
「私たちより、あの人の方が好きなんだって言われた方が…まだ信じられる。」
「…そ…なこと、言えない。死んでも、言えないよ…」
「でも、今すぐ離婚してとか…それも言えそうにないの。子どものこととか…色々、考えないとって、それはわかるんだけど、頭が全然動いてくれないから…」
『離婚』という言葉に、わかりやすく雅人の肩が跳ね上がった。
「…ちゃんと、考えたい。だから時間が欲しい。…一人になりたいけど、子どもたちを今の雅人には預けられない。…雅人に家から出て行ってもらうのも…すごく、不安。」
「…もしかして、俺が片山のとこ行くんじゃないかって…そう思ってる?」
「…うん。」
「そんなことはしない。しないけど…波那がいいって言ってくれるなら、俺はこの家にいたい。…波那が答えを出すまで、そっとしとく。だから、ここにいさせてほしい。」
雅人のその言葉に、諦めたようにも、少しほっとしたようにも見える表情で波那は頷いた。