朝を探しています
〜波那〜
リリン。
洗濯物を干し終えてリビングに戻ると、雅人のスマホがメッセージを受信した音が聞こえた。幸汰を膝に乗せたまま、ポケットから出して確認している。
あ、あの顔だ。
「幸汰、テレビ、にこにこマンに変えようか?」
そしらぬふりをしながら、波那はリモコンを取るとソファの雅人の横に腰を下ろした。
さりげなく、雅人がスマホの画面を波那から見えないように傾けた…ように見えた。
「ううん。あのね、いまね、しゃあくすのことやってるから、これがみたいの。」
どうやらスポーツコーナーでお気に入りの球団の特集が組まれているらしく、幸汰は画面に釘付けだ。小学校に入ったら、リトルリーグに入りたいといつも言っている。
波那はまだスマホを見ている雅人に声をかけた。
「誰からだった?」
「うん、高校の時の友だちで…ほら、本条悟っていたの、覚えてる?」
「えー…雅人とは学年違うし、全然覚えてないな。」
「一番仲良かった奴なんだけど。消防士になった奴。」
「ああ!うん、思い出した! 結婚式にも来てくれてたよね。すごくがっしりした体つきの人。」
なんだ、会社の子じゃなかったのか。
ほっとした波那の頭の中に件の男性の姿が浮かぶ。雅人とはまた違った系統の硬派イケメンだった気がする。
「そうそう、そいつこの春からこの区の消防署に勤めることになってさ、一度飲みに行きたいなって言ってたんだ。」
「いいね。もう長いこと会ってないんじゃないの?」
「うん、メールのやりとりだけ。で、そいつ、いきなりだけど今日出て来れないかって言ってるんだけど…いいかな?」
「え…今日?」
「久しぶりだし、そいつと飲んだら多分朝までコースになると思う…」
「朝まで⁈ どれだけ飲むつもりよ。もうそんな若くないんだから無茶しないでよ。」
雅人はお酒は強い方だが、結婚してからは一度も午前様になるまで飲んできたことはない。
「まぁさ、飲むって言うよりは話したい気分なんだけど。なんか、結婚が決まったみたいでさ。」
「そうなの⁈ あー、それじゃあ仕方ないか…」
「ほら、結婚生活については俺が大先輩なわけだから。しっかりアドバイスしてやんないと。」
「なにそのドヤ顔。結婚への夢を壊してきちゃダメだよ。」
波那が目をすがめて見やると、雅人は少し目を見開いて心外そうに反論した。
「壊れたりなんかするかよ。結婚ってこんなにいいもんだぞーって自慢してやんの。幸せがわかるぞって。」
「なにそれ。」
雅人の表情に嘘が見当たらず、波那の頰がほのかに赤くなる。結婚8年目にもなるが、時々雅人はこうやって『幸せ』という言葉でこの家庭を表現する。
その度に波那は嬉しくて幸せな気持ちでいっぱいになってしまうのだ。
「お、また照れてる? 慣れないねー。」
「うるさい。」
このところ感じていた違和感って、気のせいだったのかも。今のメールみたいに、本当はなんでもないことだったのかもしれない。
雅人に頰をつつかれながら、波那はそんなことを考えていた。
『びっくりですねー。あんなに仲の良かったご夫婦だったのに、旦那さんが不倫していたなんて。』
洗濯物を干し終えてリビングに戻ると、雅人のスマホがメッセージを受信した音が聞こえた。幸汰を膝に乗せたまま、ポケットから出して確認している。
あ、あの顔だ。
「幸汰、テレビ、にこにこマンに変えようか?」
そしらぬふりをしながら、波那はリモコンを取るとソファの雅人の横に腰を下ろした。
さりげなく、雅人がスマホの画面を波那から見えないように傾けた…ように見えた。
「ううん。あのね、いまね、しゃあくすのことやってるから、これがみたいの。」
どうやらスポーツコーナーでお気に入りの球団の特集が組まれているらしく、幸汰は画面に釘付けだ。小学校に入ったら、リトルリーグに入りたいといつも言っている。
波那はまだスマホを見ている雅人に声をかけた。
「誰からだった?」
「うん、高校の時の友だちで…ほら、本条悟っていたの、覚えてる?」
「えー…雅人とは学年違うし、全然覚えてないな。」
「一番仲良かった奴なんだけど。消防士になった奴。」
「ああ!うん、思い出した! 結婚式にも来てくれてたよね。すごくがっしりした体つきの人。」
なんだ、会社の子じゃなかったのか。
ほっとした波那の頭の中に件の男性の姿が浮かぶ。雅人とはまた違った系統の硬派イケメンだった気がする。
「そうそう、そいつこの春からこの区の消防署に勤めることになってさ、一度飲みに行きたいなって言ってたんだ。」
「いいね。もう長いこと会ってないんじゃないの?」
「うん、メールのやりとりだけ。で、そいつ、いきなりだけど今日出て来れないかって言ってるんだけど…いいかな?」
「え…今日?」
「久しぶりだし、そいつと飲んだら多分朝までコースになると思う…」
「朝まで⁈ どれだけ飲むつもりよ。もうそんな若くないんだから無茶しないでよ。」
雅人はお酒は強い方だが、結婚してからは一度も午前様になるまで飲んできたことはない。
「まぁさ、飲むって言うよりは話したい気分なんだけど。なんか、結婚が決まったみたいでさ。」
「そうなの⁈ あー、それじゃあ仕方ないか…」
「ほら、結婚生活については俺が大先輩なわけだから。しっかりアドバイスしてやんないと。」
「なにそのドヤ顔。結婚への夢を壊してきちゃダメだよ。」
波那が目をすがめて見やると、雅人は少し目を見開いて心外そうに反論した。
「壊れたりなんかするかよ。結婚ってこんなにいいもんだぞーって自慢してやんの。幸せがわかるぞって。」
「なにそれ。」
雅人の表情に嘘が見当たらず、波那の頰がほのかに赤くなる。結婚8年目にもなるが、時々雅人はこうやって『幸せ』という言葉でこの家庭を表現する。
その度に波那は嬉しくて幸せな気持ちでいっぱいになってしまうのだ。
「お、また照れてる? 慣れないねー。」
「うるさい。」
このところ感じていた違和感って、気のせいだったのかも。今のメールみたいに、本当はなんでもないことだったのかもしれない。
雅人に頰をつつかれながら、波那はそんなことを考えていた。
『びっくりですねー。あんなに仲の良かったご夫婦だったのに、旦那さんが不倫していたなんて。』