うましか
あの子は可愛い。目はぱっちりとしていて鼻は小さく、緩いウェーブのかかったふわふわの髪がよく似合っている。明るくて、高めの声はよく通り、スタイルもいい。でもそれは表の顔だ。
ねえ、聞いて、小林くん。あの子は男子の目がないところでは驚くほど口が悪くて、色々な人の悪口を言っては馬鹿にしているの。あなたと付き合い始めたのも「クラスの中ではましな方で、頭も良いから課題をやってもらう」ためだと、話しているのを聞いた。
あなたのキスが下手過ぎて笑ってしまったことも、誘っても手を出してこないヘタレだったということも、女子トークのネタにされてしまっているの。バレンタインに童貞をあげてしまったら、それもネタにされてしまうよ。
女子たちはあの子の本性を知っているけれど、学校生活で波風を立てたくないから、黙っているだけだよ。
だからどうか、傷つく前に……なんて。伝える勇気は、わたしにはない。好きな人の好きな人を悪く言うことなんて、できるわけがない。岡崎さんのことが好きな小林くんが、彼女を悪く言うわたしをどう思うかなんて、簡単に想像がつく。わたしはどうしても、好きな人に嫌われたくないのだ。
だから痛む。だから苦しい。だから情けない。
彼にとってわたしは、何でもないただのクラスメイトで、彼の物語の画角にすら入れないモブキャラだ。そのくらい、わたしは無力だ。
身動きが取れず、わたしは落胆する。これだから……これだから恋というやつは……。