うましか

 というのが十一月中旬の話だ。
 それからわたしたちは、数日後に彼の部屋で読書会デートをし、少し間を開けて十二月の始めに、わたしの部屋で映画の鑑賞会をした。翌週は少し早めのクリスマスを、わたしの部屋で手料理を食べて過ごした。

 そうしている間に少しずつ空気が馴染んでいくのが分かった。
 自分の部屋でもわたしの部屋でも、とにかく緊張してぎこちなかった彼も、次第にこの関係性に慣れ、最近では読書に集中し過ぎて近くにいるのを忘れ、わたしが出した物音に驚いたりするようになった。
 会えない日にも時たま、電話や他愛ないメッセージをくれたりもする。

 この変化が、どうしようもなく嬉しい。高校生の頃、たった五回の会話で終わってしまった恋とは思えないほどに。


 その変化が目に見えて分かったのは、十二月中旬の平日。クリスマスに向けて明日から鬼の不規則連勤がスタートする前の、休日のことだった。

 昼過ぎに突然彼から電話があり「今夜光のページェント観に行かない?」とお誘いがあったのだ。
 少し前まで、きっちり予定を組んだ仕事のようなデートをしていた彼が、だ。

 勿論喜んでオーケーして、支度をして、夕方彼の仕事が終わるのを待って、髪は乱れていないだろうか、ベージュのコートとネイビーのスカートで大丈夫だろうかとそわそわしながら数分を過ごし、合流した。

 工業製品メーカーの営業職に就いている彼は、勿論スーツ姿で、ネイビーのチェスターコートを羽織り、いつもは下ろしている前髪を上げている。
 この数ヶ月、計十二回のデートをして、会話も、ふたりでいることにも慣れ、お互いの空気も馴染んできていたけれど。初めて見る姿に心臓が飛び跳ねて、口から出てしまわないよう慌てて両手で覆ったら、笑われてしまった。

「どうしたの、急に」
「いや……スーツ姿を見るのは初めてだったから驚いて……。高校生の頃のブレザーとはやっぱり違うね……」
「まあ、制服のスラックスはチェック柄だったしね」

 まあ、そういうことではないのだけれど、そういうことにしておいた。
 わたしがどれだけときめこうが、口から心臓が飛び出そうが、これから並んで歩くのだ。



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