うましか

 ふたりで並んで、定禅寺通りを歩く。ケヤキ並木に取り付けられた数十万個のLEDによって、街はキラキラ輝いており、とても幻想的だ。
 金色に輝く通りは光のトンネルのようであり、降り注ぐ流星群のようでもある。

 その中を歩く人たちは、恋人同士だったり友だちだったり家族だったり様々だけれど、皆笑顔で美しいイルミネーションを見上げ、寄り添ったり語らったり写真に収めたりしている。

 仙台の冬を代表するこのイベントには、もう何度も来ている。
 けれど今日のイルミネーションは、いつもよりずっと輝いて見えるのだから不思議だ。いつもと違うのは、彼が隣にいる、たったそれだけのことだ。

 隣に彼がいるだけで、何度も観ているこの景色が、随分と違って見える。金色に輝く星粒が、空からとめどなく降り注いで見えてしまうのだから、恋の力は偉大だと思った。

 そう、恋だ。わたしはもう十年も前から、ずっとこの人に恋をし続けていたのだ。その気持ちから目を反らし、心の奥底にしまい込んでいたけれど。
 まるで仕事のようだった九回のデートで、心の奥底から浮上しかけていた気持ちは、ずっと低空飛行だったけれど。

 今、ちゃんと元の位置まで戻って来た。いや、むしろ、高校生の頃より高い位置まで昇って行った。

 わたしはこの人が好きだ。
 不器用だけれど思いやりがあり、真面目で誠実でありたいと思いながらも、わたしを振り回し困らせる。
 お互いの空気を馴染ませてからは、程よく手と気を抜いて、その空気は平らで心地良い。

 あの頃思っていたことは当たっていた。趣味も好みも合っていたから、きっともっと親しくなれた、と。
 再会するまで八年もかかって、再会してからもあの頃と同じ気持ちだけではいられないと。気持ちがちゃんと浮上するまで四ヶ月もかかってしまったけれど。

 もう大丈夫だ。多分この人となら気負わず、萎縮せずにやっていけるはずだ。


 そう思うのと同時に、隣を歩いていた小林くんの指が、手の甲に触れた。居場所を確認するように何度か手の甲を行き来した指は、わたしの指を絡めとり、捕まえる。
 わたしも素直に受け入れて彼の指を握り、ほんの少しだけ距離を詰めて見上げると、彼は驚いた表情でこちらを見降ろしていた。

「自分から繋いできたのに」

 言うと彼は「そうなんだけどさあ」とはにかんでから、繋いだ手を力強く握り返した。

 十二月の屋外を歩くのは勿論寒いし、お互い指先まで冷えていたけれど、少しずつ体温が混じり合い、心地良くなっていく。混じり合った体温は次第に上昇し、繋いだ手がしっとりと汗ばんできたけれど、離れ難かったから、気付かないふりをした。


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