うましか
と、まあ。幸せを存分に噛み締めたのはここまで。
クリスマスが間近に迫り、鬼のようなシフトの連勤が始まったのだ。鬼のような、というのは、朝番連勤のあとに中番が挟まりその翌日がまた朝番だとか、遅番連勤のあとに休日があり次の勤務が朝番だとか、そういうことだ。
それが年始の初売りが一段落するまで続くから、彼と会っている時間などなくなってしまった。
会えない代わりにメッセージのやりとりは毎日していたけれど、毎日くたびれ果てて返信はどんどん遅くなり、彼もそれを気遣ってかメッセージの頻度が低くなってしまった。
ようやくシフトが落ち着いたのは、一月も半ばに差しかかる頃だった。
これで心置きなく彼に会える、と思っていたら、今度は彼の出張が入り、それを終えたら本社で研修会と交流会があるという。
正直に言うと、今すぐ会いたい。もう限界だ。年末年始の鬼の連勤に耐えたご褒美に、彼の胸に飛び込み、彼のにおいを小一時間嗅ぎ続けたいくらい飢えている。
まあ、まだ付き合ってはいないし、抱きついたことも、においを嗅いだこともないのだけれど。
でもわたしばかりが我が儘を言うわけにはいかない。
彼はこの一ヶ月、メッセージの返信すらもろくにしないわたしを気遣ってくれたのだから、わたしも黙って待つべきだ。
待てる。会えなくても平気だ。高校一年生の頃、彼女と一緒にいる彼を見たくなくて、ずっと避け続けたじゃないか。高校三年間、擦れ違っても目を合わせないようにしていたじゃないか。卒業してから再会するまで、八年間も会わなかったじゃないか。だから、待てる。できる。
そう何度も自分に言い聞かせて、何でもない風を装って「お仕事頑張ってね」とメッセージを送る。「風邪ひくなよー」「風呂入れよー」「歯磨けよー」と、元気を装う。
たぶんわたしは、この数ヶ月で贅沢になった。もう十年前の、たった数回の会話で満足していた頃とは違う。
いつでも彼と連絡が取れて、会うことができて、一緒に過ごすことができるから、もう以前のようには戻れないのだ。