うましか
行き先が決まり、宿の予約を入れたあと、彼女は仰向けにばたりと倒れ込み「決まって良かったー」と安堵の声を出した。心から疲れた、という声だった。
一泊二日、県内の旅行先を決めるだけでこの疲れ様。生活サイクルが違うだけで、ここまで大変だとは思わなかった。どちらかが無理をしないと、旅行やデートすらも難しい。僕らの場合、無理をするのは大抵彼女だ。
彼女は本当にそれで、良いのだろうか。こんな不器用な付き合い方で、彼女は満足しているのだろうか。
「ねえ、笹井さん」
「うん?」
「なんで急に旅行しようなんて思ったの?」
聞くと彼女はきょとんとして僕を見上げる。
「ただでさえ仕事が忙しいのに、旅行のためにさらに忙しくなって。笹井さんは大丈夫なのかなって……」
きょとんとした表情のまま僕を見上げていた彼女は、少しだけ視線を外し、考え込んだあと「大丈夫」と答えた。目の下にくっきりとくまを浮かべた顔じゃあ、いまいち信用できない。
そんな僕の心中を察したのか、もう一度「大丈夫」と言ったあとで、彼女は大きく息を吸い込んだ。
「うちの店長が、結婚することになったの」
「うん?」
「そしたらスタッフの子たちが、次は笹井さんですねって。もし良ければ次の合コン一緒に行きますかって」
「え……」
「不思議なことに、恋人がいないって思われていたみたい」
それは何となく理解できる。八年ぶりに再会してから、彼女はいつも忙しそうにしていた。正社員としての責任感もあるだろうし、副店長になってからは仕事量も店にいる時間もだいぶ増えたみたいだし、いつも店にいる副店長に恋人がいるなんて、誰も想像しないだろう。