ワケありイジワル王子はツンデレ姫様を溺愛したい。

避けられてる?

【梨愛side】


やって来てしまった。




今年もこの地獄のイベントが。




その名も体育祭!!




運動が苦手な梨愛にとって、体育祭は休みたい学校イベント第1位をずっとキープしている。




この学園では、クラス対抗がリレーと玉入れ、クラス代表の対抗が騎馬戦、リレー、障害物競走、借り物競争、パン食い競走となっており、クラス対抗は強制参加、クラス代表は5つから2つの競技を選ばなければならない。




つまり、最低4つの種目に出る事になる。




うぅ……なんで梨愛が運動なんか!やりたい人がやればいいよ!




そんな事を考えるのも毎年の恒例。




そんな梨愛がやりたい種目は、クラス対抗は絶対として、借り物競争とパン食い競走。




リレーは梨愛足遅いし障害物競走とかもヘマして目立ちたくないし……。




これ人数が多かったらその中からランダムだから、絶対にやりたい競技やれるとは限らないんだよね。




出来なかったらどうしよう。




……タタは、何に出るのかな。




以前にも増して、最近タタの事を考えている梨愛。




そんな自分に顔を赤くする。




顔が熱い……。




最近、梨愛は前以上にタタを意識している。




梨愛がタタの隣に立って、大丈夫なのかな。




そんな不安も、感じる。




ふと視界に2人の人物が入り込んだ。




………ん?あれ、タタと亮だよね。なんで2人が一緒にいるんだろう?




まさか、言い合ってるわけじゃないよね!?




梨愛は、急いで2人の元へ向かった。




「タタ、亮!何して……あ」




ドジな梨愛だから、何も無いところで転ぶなんて日常茶飯事。




こける!と思ったけど、梨愛はフワッと持ち上がった。




「タタ!」




「梨愛、大丈夫か?」




タタ、かっこいい………って、見惚れてる場合じゃない!




「タタ!子供扱いしないで!これちっちゃい子にする事だよ!!」




「間違ってるか?」




〜〜、梨愛がいくら身長低いからって……タタ酷いよ!
梨愛がぷいっとそっぽを向く。




すると、タタはいつもの男らしい姿とは裏腹にオロオロし始めた。




「り、梨愛?悪かった、もうしないから、な?」




チラッと見ると、タタは本当に申し訳なさそうな顔をしていた。




うっ、そんな顔されると許すしかないじゃん。




「……別に、いいけど。」




その言葉で、タタはホッと息を吐く。




その一方で、亮は何故か気難しい顔をしていた。




亮、怒ってる?




「亮、どうかした?」




「………」




返答がない。




「りょーう!」




「ん?って、梨愛?悪い、考え事してて気づかなかった。それで、どうしたんだ?」




いつもの様に話しているつもりなんだろうけど、どこかおかしい。




……やっぱり2人喧嘩してたでしょ!?




「もう、喧嘩しちゃダメでしょ!」




「え?なんの事だ?」




「2人喧嘩してたんじゃないの?」




「違うけど」




あれ?




違うんなら、亮はどうして……。




いや、詮索するのはやめよう。




そして梨愛は知る事となる。




この学園の警備が以前より厳重になり、セキュリティも固くなったことを。




そして、その申し出は水野家からだったそうだ。





次の日、お昼を梨愛と純麗とタタと亮のいつものメンバーで食べることにした。




「純麗のサンドイッチ美味しそう!」




「そう?ならどれか食べる?」




「いいの!?」




「ええ」




梨愛は、卵サンドを手に取った。




美味しくて、幸せに浸っていると昨日の事を思い出した。




「聞き逃してたんだけど、結局2人は昨日何話してたの?」




そして2人は少しむせる。




だ、大丈夫かな?




すると亮が。




「ああ、あれはり……じゃなくて……」




「り?」




「あーっと……り、り、リンゴってうまいよなーっていう話だよ!な、清美!」




「ああ」




タタはいつも通りだけど、亮は何だかソワソワしている。



まあ、なんでリンゴになったのかは分からないけど……喧嘩じゃないならそこまで気にしなくてもいっか。




そして、4人で楽しく昼食を……と、言う訳にもいかなかった。




「桃瀬さん!自分が出たい体育祭の競技、締め切り明後日までだからなるべく早く書いてね!」




「うん!」




「それと清美さ……清美くんも!」




「………」




タタ返事返してあげてよ!




というか、タタどの競技に出るんだろう?




……もしかして、みんなタタと同じ競技に出たくて書いてないんじゃ?他のクラスの子は敵になるのに。




疑ってしまったけど、実際はそんな事ないだろうと思っていた。




でも教室で。




「まだほとんどが希望競技の紙出してないが締め切り明後日だぞ?人数分けとかもあるから早めにして貰えると助かる。」




そんな教師の言葉。




やっぱり、タタは人気者だよね……。




タタも、チヤホヤされて嬉しいんだろうなあ。




梨愛がいなくても全然大丈夫だから。




その証拠がこれ。




「タタ、お昼食べに行こう!」




「ああ、悪い。今日予定あるから。」




別の日。




「タタ、一緒に帰ろう。」




「悪い、担任に呼ばれてるんだ。」




なんか冷たくない?




それに、最近はあまり笑っていない。




梨愛、何かしちゃったかな……。




そう思うと、愛想を尽かされたのかと急に不安になって、逃げるように家へ帰った。





「はぁ……」




大きなため息と共に、梨愛はベッドに顔を埋めた。




「梨愛、やっぱりタタに集中しすぎだったかな。」




“あの事”があって、タタが自分を責めるのはもうやめて欲しいと思った。




だから、焦りすぎた。




いつも気にするのはタタの顔色で、そんな梨愛をタタは鬱陶しく思ってるんじゃないか。




考えたくないけど、それが1番濃厚。




どうすればいいのかな………。




らしくなく、自分に自信を無くしていた1日だった。




次の日、梨愛は体育祭の希望種目を書いてから一目散にタタの所へ向かった。




行動しなかったら、何も起こらないから。




待ってるだけじゃ、ダメなんだ。




「タタ!」




「梨愛?どうし……」




「タタ、梨愛の事嫌いになっちゃった!?」




急いできたから、運動音痴な梨愛は息が上がっている。




「タタ、梨愛の事嫌い?」




タタは驚いている……のかもしれないけど、思った以上に疲れて下を向いている梨愛には分からない。




「何言ってるんだ、俺が梨愛の事嫌いな訳……」




「じゃあ!」




大きく声を上げた梨愛にタタは体を反応させる。




「梨愛、本当にどうしたんだ……」




「なんで、最近梨愛の事避けるの?」




「あ………」




やっぱり、自覚あったんだ。




「タタはもう、梨愛の事嫌いになったんでしょう?もう、梨愛達別れる?……う……っ」




自分で言った事が悲しくて、涙が出てくる。




タタに、好きな人に嫌われるのがこんなにも悲しくなるなんて。




涙が止まらない。




梨愛が、耐えきれなくてその場を立ち去ろうとした時。




「梨愛………」




梨愛は、タタに後ろから抱きしめられていた。




「なんで、なんで………離して……」




今抱きしめられたら、きっとタタに甘えてしまう。




もう、そんな事したらダメなのに。




「梨愛」




タタが、耳元で優しく呟く。




「俺、梨愛の事嫌いじゃない。嫌いになんてなれない。
梨愛は可愛くて、俺の自慢の彼女で、大好きで仕方ないから。前も言ったろ?俺に愛されてろって。」




「っ……ん……」




安心の涙へと変わっていく。




タタは、後ろから梨愛の前に来た。




そして、真っ直ぐな目でこちらを見てこう言う。




「梨愛、俺は梨愛が大好きだ。梨愛が居れば他には何も要らないほど。俺が梨愛に告白した時、なんて言ったか覚えてるか?」




あ……覚えてる。




あの時は嬉しくてたまらなかったから、鮮明に覚えている。




「う、ん。」




「なら大丈夫だろ?結婚を前提に、って言ったんだ。なんなら今すぐ結婚したいくらい。」




少し照れくさそうに言うタタ。




ああ、いつものタタだ。




梨愛が大好きなタタだ。




「タタ」




「ん?」




優しい声。




やっぱり、梨愛は……




「梨愛も、タタと早く結婚したいと思ってる。梨愛はね、タタ無しじゃ生きていけないくらい、タタが大好きなんだから!!」




そしておでこにキス。




「り、梨愛………、!」




今度は唇に。




タタが珍しく顔を赤くしている。




この顔は、梨愛の特権だな。




「もう、梨愛に冷たい態度なんて取らせてあげないからね。梨愛と結婚するなら、覚悟しといてね?」




いつも梨愛はタタに意地悪されてばかりだから、梨愛もって思ってやっちゃった。




でも、タタの赤い顔が見れて梨愛はドヤ顔。




なんだけど……




「それは、俺のセリフだ。」




吐息混じりのその声は、梨愛の調子を狂わす。




「梨愛のウェディングドレスも、当たり前だが特注するからな。」




ひぇっ、梨愛なんか火つけちゃったかも!




でも、タタがいつも通り(?)に戻ったから良かった。




タタに嫌われていない事が分かって、嬉しかった。




なんて浮かれてる場合じゃなくて。




梨愛はヒョイっと持ち上げられ、気づいた時にはもうタタの腕にすっぽりと収まっていた。




「ちょ、ちょっとタタ!?どこ行くの?」




「決めてない。」




決めてないって、じゃあどうするの!




「でも、まあ……未来の奥さんにあんな可愛い事されて、じっとしてられる訳ないだろ?学園、抜け出すぞ。」




え、えぇえ!!




「だ、ダメだよ?」




「ダメじゃないだろ?梨愛は俺と過ごす時間より授業の方が大事なんだ?」




「うっ………そ、そんな事ない!」




ここでそうだよなんて、言えないよ!




そして梨愛は、タタの思うがままに連行された。




そして今目の前に広がっているのは、水色に輝く広大な海。




「わぁ〜!海なんて久しぶり!」




風が気持ちよくて、両手を空に広げる。




「すごいね、タタ。」




「ああ、綺麗だ。」




「違うよ、今タタと2人で海を見てるこの瞬間は奇跡なんだって思って。」




「……そうだな、この運命で俺も良かった。」




タタにもそう言ってもらえて嬉しい。




梨愛は、今まで恋とかよく分からなくて、タタに芽生えた気持ちに戸惑ってた事もあった。




でも、その気持ちは無駄じゃない、奇跡なんだと思って。




80億人といるこの世界で、タタと巡り会えた事。




それは途方もない確率に勝った証。




「梨愛、恋をしたのがタタで良かった!梨愛は、絶対この世界で1番幸せな人間だよ!!」




って、言ってて恥ずかしいな、これ……。




すると、タタが砂浜に座るよう促してきて。




「梨愛、俺の嫌いなところ言って。」




え!?急にどうしたのかな。




「なんで?」




「いいから。」




タタの嫌いなところ、タタの嫌いなところ……




無いんだけど。




「ごめんタタ、無い。」




「ごめんっていうのもおかしいけどな。」




あっ、確かに。




「……嫌いなところ、無いのか?」




「うん。」




「じゃあ、一緒だな。」




「?」




「俺も、梨愛の嫌いなところなんか無い。これから、俺と梨愛はどうなるんだろうな。まあ、結婚はするけど。」




「っ………」




タタってサラッとそういう事言うよね。




「タタ、ズルいよ……」




「それは梨愛もな。可愛いすぎて困る。」




「〜っ、それだよ!」




「ほら、それも可愛い。」




うぅ、キリが無い。




眩しい海が、梨愛とタタを照らす。




「なあ、梨愛。拓也って、呼んでくれないか?」




「えっ」




な、ななな名前呼び!?




タタは、タタだからなぁ。




タタって呼び始めたのいつだっけ……。




そう思いながらも、大きく息を吸って。




「拓也」




風が吹き、いつもと違う雰囲気を作り上げた。




タタは、何故かずっとこちらを見ている。




「………や、良すぎだろ。」




タタは、本当に嬉しそうで。




そんな顔されたら……もっと言ってあげたくなるじゃん。




「じゃあ、これからも拓也って呼んであげないこともないし?」




「可愛いな、ありがとう。」




〜っ、こんなにドキドキしてるのって梨愛だけ?




タタ……じゃない。拓也もドキドキしてたら、嬉しいな、なんて。




あ。




「それで、なんで拓也は梨愛の事避けてたの?」




忘れたかなんて安心してもダメなんだから!




梨愛は覚えてるもん!




「あ、と……。避けてた訳じゃ、なくて……」




「じゃあ何?」




梨愛、寂しかったんだからね。




彼女に涙を流させた罪は重いんだから!




拓也は言いずらそうにしている。




も〜、何なの?




あ、梨愛いい事思いついた。




「答えてくれないんなら……」




「な、何だ………」




「もう、これから拓也と口聞いてあげませーん。亮や純麗と遊んでるもん。」




「ピクっ」




梨愛の言葉に分かりやすく反応したタタ。




卑怯な手だと自分でも思う。




純麗はまだしも……亮って言ったから、嫉妬してくれたかな?




しかも口聞かないとか。




言ってくれなくても、それはしないけど。




だって、好きだもん。




「言ったら、今まで通りにしてくれるか?」




「うんっ」




「なら言う。」




やったー!




本当に理由が気になってるんだよね。




梨愛を避けた理由。




「まあ、その………虫を排除してたんだ……」




虫?




「掃除って事?」




「あ、ああ。先生に頼まれてて、汚れてる時に梨愛の所に行く訳にはいかないから。」




「なるほど!」




そう言うと、何故かほっと胸を撫で下ろしている拓也。
何でだろう。




でも、理由が梨愛の為って分かって嬉しい。




それに、先生に頼まれたことなら仕方ないよね!




鈍感な梨愛は、本当の意味なんて気づくなずもなく。




「じゃあ、帰ろっか!……って、学園抜け出してきたんだよ!?どうするの?」




「俺は帰るなんて言った覚え無いけど。」




「え、まだここにいるの!?」




「じゃあ学園に戻るか?怒られると思うがな。」




誰のせいだと思って!




でも確かに、これからすぐ帰るよりはまだこっちに、拓也と2人で居たい。




そうと決めたら。




「じゃあさ、あのクレープ食べたい!」




さっきからずっと気になってたんだ。




視界の隅に見える、あの美味しそうなクレープの旗。




梨愛、甘いものには目がないから。




すると、拓也は笑った。




「な、なんで笑うの?」




「いや、さっきまで帰るつもりでいたのに。」




「むぅ。」




しょうがないじゃん!だって美味しそうなんだもん……。




からかってきたかと思うと。




「可愛いな。」




急に甘くなる。




拓也の相手をするのは、別の意味で大変。




心臓に悪いから。




「いいから、クレープ食べに行くよ!」




「ああ、好きなだけ食べろ。」




「うん!」




「なんなら買い取ってやろうか?」




「ダメだよ!」




普通なら冗談だと思うけど、拓也だからやりかねない。




興味を示すのも程々にしないと。




そうして2人は横に並び歩いていく。




本当に、梨愛は幸せだな。




うん、そりゃそうだ。




体育祭の事をすっかり忘れていたんだから。


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