8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~3
「その聖獣は、かつてこの土地に住んでいたそうです。ボーン帝国の前の時代にあった一小国で、神としてまつられていた……と。ここで採れた鉄鉱石は、空から落ちてきた隕石の主成分だそうです。隕石はここら一帯に存在していた国を滅ぼしてしまいました。隕石によってできた地層はそこまで厚いものではないそうです。これ以上の採掘は、この土地を荒らすだけだと考え、止めるようにと僕に訴えてきたのです」
にわかには信じられない内容に、ベンソン伯爵は狼狽える。
「お、お言葉ですが、オリバー様は夢でも見られたのでは? 聖獣だなんてそんなもの、私はここにずっと住んでおりますが、一度だって見たこともありません」
「聖獣はいます」
オリバーはキッと顔を上げた。
父の力を借りず、ここを切り抜けるのだ。聖獣の加護を得ているのは父ではない。オリバー自身なのだから。
「リーフェ、お願い」
自分に加護をくれた聖獣の名を、オリバーは心を込めて紡いだ。
しばらくののち、頭の中に『いいよー』という彼女の声が響く。
室内に微弱な風が吹き始める。
「なんだ? 窓は開いていないはず……」
ベンソン伯爵がうろたえたようにあたりを見回す。風は窓枠を揺らし、オリバーはリーフェの気配を近くに感じる。
『姿を見せてもいいの? オリバー』
「リーフェが困らないなら」
『じゃあ……』
ぼわりと浮かびあがる狼の影は、オリバーの背後に立ち、彼を守るようにしっぱを揺らす。ベンソン伯爵とその配下、そしてロジャーが、驚きで身をすくめる。
「お、お、オスニエル様。オリバー様の背後に化け物がぁ!」
慌てるロジャーの頭をオスニエルが小突く。
「馬鹿、あれは聖獣だ」
リーフェの瞳がきらりと開き、書類を巻き上げるほど強い風が一瞬だけ起こっては消えた。
「……僕にはブライト王家の血が入っています。聖獣がオズボーン王国で信じられていなくとも、実際に僕を守ってくれる聖獣はいるのです。どうですか? 伯爵。これで信じていただけますか」
「わ、うわああ。化け物」
伯爵がそう言った瞬間、オスニエルがロジャーの腰から剣を引き抜き、伯爵の頬にあてる。