8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました～お飾り側妃なのでどうぞお構いなく～3

　笑顔でごまかそうとするロジャーに不満を覚えつつも、不意にあくびが出てしまい、オスニエルは自分が疲れていることを自覚する。

「まあいい。これ以上話していたらもっと遅くなりそうだ。……無理はするな。それだけだ」

　オスニエルは立ち上がり、扉の所まで向かってから、もう一度振り向いた。

「もし、意中の令嬢がいるなら言え。俺の後押しがあるのとないのでは、心証が違う」
「はいはい。ありがとうございます。オスニエル様にそこまで言っていただけるなんてこのロジャー、涙が出そうで……」

　オスニエルは、最後まで聞かず、扉を閉めた。調子のいい返事をしているときのロジャーは、オスニエルに頼る気などまったくないのだから。

（まったく、こちらは本気で心配しているというのに）

　ため息をつきつつ、オスニエルは後宮へと向かった。



　執務室のある城と、後宮の間には庭が広がっている。前王の後宮を解体した際、オスニエルはフィオナたちの住む後宮も住みやすくなるよう改築した。
　後宮からも城からも利用しやすいように途中に湯殿を作り、渡り廊下でそれらを繋いだ。
　後宮の警備のための詰め所も作り、人の出入りはしっかりと見張らせている。

　廊下を歩いていくと、見張りの兵がオスニエルに気づいて黙礼する。

「ご苦労」

　軽くねぎらい、中へと入る。
　後宮内は、以前よりも広くなり、侍女たちの部屋も以前より多く確保してある。
　すでに日が変わるような時間になっていたため、後宮内は静まっていた。不寝番の使用人が、詰めている部屋から出てきて頭を下げる。

「もう湯あみも終えてきた。あとは勝手にやるから気にするな」
「ですが……」
「いい。俺も寝るだけだ」

　そのまま、オスニエルはまずアイラの部屋に向かう。オリバーとアイラはともに十歳。今はそれぞれ独立した寝室を持っている。

「むにゃあ、くふふ」

　静かに扉を開けたはずなのに、突然声が聞こえ、オスニエルは驚いた。近づいてみれば、アイラの目はしっかりと閉じていたが、口もとは笑っていた。

「なんだ。夢を見ているのか？」

　感情表現が豊かで素直なアイラを見ていると、一日の疲れが吹き飛んでいくようだ。