8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~3
「チュウ」

 チャドの声だ。普段、オリバーの部屋から出てこないのに、珍しく外にいる。草木の陰からこちらを見上げていた。

『そんなにがむしゃらに剣をふるっていては、怪我をしてしまうぞ』
「別にいい」
『やれやれ、さっきの喧嘩のせいか』
「……あっちに行ってよ」

 原因がチャドのことだから、彼にも心労をかけているのかもしれないとは思いつつ、今は優しい言葉をかけられそうにない。八つ当たりはしたくないから、傍に誰もいないでほしいのだ。

 チャドは「チュウ」と小さく鳴くと、肩をすくめて、どこかへ走って行ってしまった。

「……ふう」

 オリバーは再び剣を振るう。

「オリバー様」

 そこに、男の低い声がした。すでに夕闇で顔がはっきり認識できない。けれどシルエットに見覚えがある。

「……カイ?」
「やっぱりオリバー様。どうしたんですか。こんな時間にけいこですか? もう暗いですし、危険ですよ」
「でも」

 オリバーがうつむくと、カイはしばらく沈黙したのち、優しい声を出した。

「じゃあ、こうしましょう。俺がお相手します。俺めがけて打ち込んできてください」
「……うん」

 面倒見のいいカイらしい意見だ。
 近衛騎士団の副団長でもある彼は、部下からの評判もいい。騎士団長の都合がつかない日は、オリバーの訓練に付き合ってくれることもある。

 夕闇の中、しばらくふたりの剣が打ち合う音が響く。

「オリバー様は何か迷っているんですか?」
「え?」
「ほら、脇、空いていますよ」

 空気を切る音がしたかと思うと、腰のあたりに剣が入ってくる。オリバーは反射で目をつぶってしまったが衝撃はなく、そろりと目を開ければ、カイの剣が体に触れる手前で止まっていた。
 カイはオリバーの反応を確認した後、剣を鞘に戻した。

「いつものオリバー様なら、もっと動けるでしょう。俺にこんな隙を見せるなんて、珍しい」

 さらりとカイが言った。

(いつも……いつもの僕ってどんなんだったろう。なんだかもう、わからなくなってきた)

 オリバーはため息をつくと、思いに素直に聞いてみた。
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