8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~3
「……俺は、オリバー様を嫌っている人間なんて見たことありませんけれど。誰かに何か言われたんですか?」
「え? だって。みんなアイラの方が好きでしょう?」
「アイラ様はあの性格ですからね。みんな微笑ましく思っているでしょうけど、それとオリバー様を嫌うのは、別の話じゃないですか?」
「……それは」
「アイラ様は優しく気立てのいいお姫様です。でも、国を動かすにはどうでしょうね。冷静に状況を見つめることができるかは少し怪しいのではないかと思います」
たしかに、人から好かれるだけが王の資質ではない。王は冷静に、国を正しく導く力が必要だ。
「……あなたが見失っているのは、本当の自分の姿なんじゃないですか? 自分が持っている理想の国王と、自分の資質が違うから、迷っておられるのでは?」
不思議と、カイの言葉はストンと落ちてきた。
「……僕は、父上みたいな王になりたいんだ。強くて、頼もしくて、人の気持ちも理解してあげられるような。だけど……」
全然理想どおりになれない。口下手で、こうすべきだと思う理想があっても、そこにたどり着けずにいる。
「オスニエル様ですか? でも、昔のオスニエル様はただ怖いだけでしたよ。人の話を聞いてくれるって感じはありませんでしたし、うかつに失敗したら斬られるって思っていました。今のオリバー様のほうがいいですよ」
「嘘……」
意外だ。オリバーにとって、父は強くて優しい。生まれ持った武術の才能で周囲を引っ張り、弁も立つ。王とはこうあるべきだとオリバーは素直に思えたし、高く越えられない壁として、尊敬と畏怖の念をもってオスニエルを見てきた。
近寄りがたい存在だなんて、考えたこともなかった。
カイはオリバーの驚きをものともせずに続ける。
「オスニエル様が変わられたのは、フィオナ様が輿入れされてからですね。それまでは自分の主張にこだわられるところがありましたが、よく話を聞いてくれるようになりました。ロジャー様も、物腰が柔らかくなったと言っておられましたよ」
「そうなんだ」
自分の知らない父の姿に、オリバーは心が揺らぐのを感じる。
ではいつか、自分も変われるのだろうか。自分の理想とする王になれるのだろうか。