8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~3
力を侮るもの
オリバーが部屋に戻ったとき、チャドは窓際で外を眺めていた。
『戻って来たか』
「うん。チャドも戻っていたんだね。……さっきはごめん」
チャドは首を振り、ひげをピクピクと動かした。
『なあ、アイラとはなぜ喧嘩になったのだ?』
チャドが基本的なことを聞いてきた。
「僕が、アイラにチャドのことを内緒にしていたから……かな」
実際にはそれだけじゃない。ずっと抱えていた自分へのふがいなさが、アイラへの羨望へと形を変え、彼女にぶつけてしまったからだ。
『お前と一緒に加護を分けあっているのは、あの娘なのだよな?』
「そうだよ。アイラは、見えないものを見ることができる」
『あの白い狼が聖獣だな?』
「そう。リーフェっていうんだ」
『お前は、加護を分けあっているのが嫌なのか?』
チャドは、腕をよじ登って肩にまでやって来た。
「チャド?」
『もし、自分だけの聖獣が欲しいのなら、我がなってやろうか』
オリバーはひゅっと息を吸い込んだ。ひそかな望みをチャドから言い出されるとは思わず、心臓がバクバクする。
「ほ、本当?」
『ああ。だが、我の頼みを聞いてくれるのなら、だが』
「頼み?」
『我に力を貸してほしいのだ』
オリバーは軽率に頷く。「自分にできることなら」と続けると、チャドは『お前が持っている加護の力を貸してほしいのだ』と言った。
オリバーは戸惑ってしまう。
「リーフェの加護の力? でも僕、使い方がよくわからないんだ」
増幅能力があるということは、フィオナから聞かされていた。しかし、増幅能力というのは、基本ひとりで使えるものではない。
オリバーは、何度かこの力を使っているらしいが、使っているときは無意識だ。どんな風に使えばいいのかもわからなかった。
ドルフもリーフェも、オリバーに助力を求めてきたことはないし、氷の力を持つフィオナも、人ならざるものを見る力を持つアイラも同様だ。この平和なオズボーン王国では、人智を超えた力を使わなければならないタイミングなどそうそうないのだから。
オズボーン王国はもともと聖獣に関する理解が少ない国だから、オスニエルもその力を前提にして物事を考えない。代わりに、武力や交渉力で、オスニエルは国をしっかり運営している。