8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~3
「チャドの力を増幅すればいいの?」
『我はあまりに力が弱い。微弱に地面を揺らせるくらいしかできないのだ。お前は、この国が今、鉄の採掘に力を入れているのは知っているか?』
「うん」
鉄道を全土に走らせる計画があることは、フィオナとオスニエルの会話から理解していた。
『資源を有効利用するのは大事なことだ。しかし、物には限度がある。これ以上鉄が出ないとわかっている土地を、掘り続けるのはただの環境破壊だ』
「環境破壊……?」
『我はそれを止めたい。だから奴らに警告したいのだ。そのために、地震を起こしていた』
「地震……って、じゃあ、あの地盤沈下は」
オリバーの血の気が引く。
自然災害だと思っていたあれが、聖獣の仕業だとは思わなかった。
ドルフもリーフェも力の強い聖獣だけれど、人間のやることには興味がない。積極的に人にとっていいこともしないが、悪いこともしない、我関せずといった調子だ。でも、聖獣の意思が人にとって悪い方に傾けば、こんな災害だって引き起こすことができるのだ。
(……どうしよう。怖いことを知ってしまった)
「僕は、人を傷つけることに協力はできないよ」
『人を傷つける気はない。ただ、あの場を掘り続ければ危険だということを、人間たちに示したいだけだ。あの程度の揺れで地盤沈下が起きるくらい、あの辺りは地盤が弱い。そのことを知らしめたい』
「……もうわかっているんじゃないの。この間、地盤沈下が起きたんだから」
『だがまだ掘り続けている。我には、あの土地の悲鳴が聞こえるのだ』
そうだとすれば、やはり止めるべきなのだろうか。
「父上に聞いて……」
『人間に言って、理解などしてもらえるわけがない。お前だって、何を言っているんだと変な目で見られるようになるぞ』
「大丈夫だよ。父上は……」
『この国の人間は、聖獣など信じていない。お前たちのような加護持ちは異端扱いされるはずだ』
「そんなことは……」
ないはずだ、とオリバーは言えなかった。
本当に理解され、あがめられる力ならば、ドルフは子犬としてではなく、普段から聖獣の姿でいるだろう。
フィオナもドルフもリーフェも、自分たちの力を隠そうとしているし、オリバーやアイラにも人前で使わないようにと言っている。それは異端扱いされるのを恐れているからだ。
黙ってしまったオリバーの肩に、チャドが腕を伝って登ってくる。
『頼む、オリバー。お前の力を貸してくれ』
小さな頭がちょこんと下げられる。オリバーは、今は困惑の方が大きく、とても判断ができなかった。
「……少し、考えさせて」
結局、判断を保留にして、オリバーは眠りについた。