8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~3
 フィオナの目が柔らかく弧を描く。アイラやオリバーの前では気丈にしているが、父がいないことは心配だったのだろう。
 お菓子を食べて、お茶を飲んでいると、フィオナは優しいまなざしで、柔らかく問いかける。

「オリバー。何か困っていることでもあるの?」
「え?」
「最近、沈んだ顔をしているわ。少し心配になったの」

 どうやら、今ふたりきりなのは、母が仕組んだことらしい。
 顔に出さないようにしていたつもりだったのに、気づかれていたのかと思うと気恥しい。
 妊娠中の母に心配をかけたくはなかったが、今の中途半端なままでも心配させてしまうだろうと、オリバーはあいまいに説明した。

「う……ん、ちょっと悩んでいることがあって」
「どんな事?」
「友達の力になってあげたいんだけど、僕にできるのかなって思って」
「お友達の?」

 フィオナは少し考え込んで、続けた。

「どうして悩んでいるの?」
「……それが正しいのかわからなくて」

 〝増幅能力を使うか迷っている〟とは言えなかった。
 オリバーは無意識に、フィオナに反対されるのを恐れていた。

 心の半分は、チャドの味方をしたいと思っている。だって、誰かに一番になってほしいのなら、自分がその相手の一番にならなくてはフェアじゃない。

「お友達がしているのは悪いことなの?」

 フィオナは学校の友人のことだと思っているのか、きょとんとしたまま質問を続ける。

「悪いことではない……と思う」
「でも悩んでいるのね。どうして?」
「それは……」

 オリバーはそれきり、何も言えなくなってしまった。
 うつむいていると、フィオナが隣に座り、オリバーの背中を優しく撫でる。

「オリバーは、そのお友達のことを、信じているの?」
「力になってあげたいって思っている。できれば僕の力にもなってほしいって」
「そうね。……あなたが信じたいと思うならば、信じなさい。その代わり、何が起こってもあなたも一緒に責任を取るのよ。……私もオリバーを信じているわ。だからあなたが決めたことなら応援する。何が起こっても、あなたを助けることを誓うわ」
「母上……」

 オリバーは少しだけ背中を押されたような気分になった。

「……うん。ありがとう。母上」
「困ったことが起きたら、すぐに言うのよ」

 オリバーは立ち上がりがてら、母親の膨らんだお腹をそっと撫でた。

「うん。できるだけ心配かけないようにする。赤ん坊に何かあったら大変だし」
「この子も大切だけど、あなたのことも大切なのよ、オリバー」

 躊躇なくそう返されて、オリバーは少しだけ泣きたくなった。

「……ありがとう、母上」

 母親に感謝の気持ちを伝え、オリバーは居間を後にする。
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