8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~3
気が付くと、オリバーは地面に立っていた。
突然の情景の変化に瞬きをする。鉱山は相変わらずさびれた雰囲気でひっそりと静まっているし、先ほど崩れたのを確認したはずの建物は、ちゃんと遠くに建っている。
「……ど、どうして?」
戸惑い、慌てるオリバーを銀色の光に包まれた狼が、痛ましそうに見ている。
『時を戻した。三十分ほど……惨劇が起こる前だ。だが、とっさだったので、お前を中心に戻してしまった。記憶があるだろう。済まない』
ドルフがわずかに頭を垂れる。オリバーは先ほどの惨劇を思い出して、足がすくんだ。動けなくなり、力が抜けたように地面にお尻をつける。
「ぼ、僕……」
オリバーを慰めようとするドルフに、チャドが食い下がる。茶色の毛並みが、やや淡く光っていた。
『時間を戻す……だと? そんなことができるのか? すごい力だ。その力があれば』
興奮したように叫ぶチャドを、ドルフはぎろりと睨んだ。
『お前、さっきの力はなんだ? 明らかに急激に増えただろう。オリバーの増幅能力のせいだけじゃない』
『教えたら、お前の力を貸してくれるか?』
『馬鹿を言うな。俺は誰の命令にも従わない』
『では、我も断る』
『……殺されたいのか?』
チャドとドルフの間に、殺伐とした空気が漂う。
それを見ながら、オリバーはようやく理解が追い付いてきた。
どうやら、ドルフが時を戻してくれたおかげで、あの惨劇はなかったことになったらしい。
唸るような地響きと、崩れ落ちる建物、逃げ惑う人々。その光景が一気に頭の中によみがえり、オリバーの体が震えてくる。
「う、うわあああっ」
『オリバー!』
「いや、いやだぁ」
『落ち着け!』
首のあたりに鋭い衝撃を覚え、オリバーは一瞬息ができなくなった。
「ドル……フ……?」
『大丈夫。何もなかったんだ、オリバー』
痛ましそうにこちらを見つめるドルフが、だんだんぼやけていく。
オリバーはそのまま意識を失ったのだ。