君は私の邪魔をする…!
君は私の邪魔をする……!

ほんぺん

私には私のこだわりがある。

それは

ー休日は10時までたっぷり眠ること…!!!

眠ることが大好きな私にとって,とても重要な"こだわり"だ。

それは休日くらいゆっくりしたいと言う心から来ており,かつ何よりも充実した時間だと思っている。

なのに,だ。

私には昔から,それを阻もうとするラスボスみたいな力の存在がいた。



「なぁ~? まだ寝てんの?」



もぞもぞ…もぞ。

もうこの時点で私の心臓は縮み上がり,目はすっかりと覚めてしまう。

でも,私はお布団自体も好きなのだ。

多少の動揺くらいで起きはしない。



「だから,なんで毎回入ってくんのよ。狭いでしょ,やめてよ。だいたいあんたはちっちゃい時からーーー」



1度口をつくと止まらず,相手が嫌そうに眉を潜めたのが見なくとも分かった。

だいたい。

恥ずかしいでしょうが,普通に。

いくら幼馴染みでも。

こんなのが許されるのは,自我を持ち始めるまでのことだ。



「えー。寒いじゃん」 

「もー夏ですけど!??」



気でも触れてんのかと,こいつに対しては時々おもう。

多少言いすぎな気はするが,それほどまでに『いつも』なのだから仕方ない。

私の静かで素晴らしい睡眠は,いつもこの悪魔みたいな怪獣に脅かされてきた。



「自分も入ってんじゃん」



はぁっ!? 
と後ろを向くと,何故だか分からないほどの真顔が,それも至近距離にあって,私は何となく咳払いを1つ落とすといそいそと背を向ける。



「い,いーの。私のだから! ってかこの部屋も私のなんだから勝手に入ってこないでよ」



家族でもないのに。



「ノックしたし」

「気づいてたわアホ! ノックって言うのは」



相手の返事と許可を求めるものであって…

ってそんなこと説明するだけ無駄なんだったわ…。

私は何故かすんっと冷めた気持ちになった。



「えー。もういいじゃんそんなの。ほら映画いこーぜ。前言ってたやつ始まったから」

「……えー」

「なんでだよ」

「そんなの…午後でいいじゃん」



ゆさゆさと寝っ転がったまま私の肩を揺するそいつ。

迷惑この上ない。

が,お誘い自体は魅力的である。



「ほらでーとだよでーと」

「そんな棒読み適当なデートのお誘いなんて嫌よ。絶対乗らないから」



ふんっと私は突っぱねたつもり。

だが,所詮はつもり,であった。



「なに? 適当じゃなかったらいーの」

「は!?」



なんでそんなどうでもいいような所で食いつくの。

やっぱりバカだ,こいつ。

と,私は半ばやけくそな気持ちで布団を思い切り被る。

完全に無意識だったわ,あほ。

 

「~っあー! もう! 分かったわ,行けばいいんでしょ,行けば! このっバカ! ドあほ~~っ!!」

「うわっ!? お,おう。…やったね。相変わらず分かってんじゃん」

「相変わらずって言うなばか! 着替えるからはやく出てけー!!!」

「はいはい」



私はそいつを,なんの躊躇もなくベッドから蹴り落とす。

なのに,そいつはそいつで,「ほっ」と慣れたように,綺麗に着地した。

それがまた癪にさわる。

絶対,絶対。



「来週は寝てるんだからー!」

「おーん? じゃ,来週も起こしにくるわ」

「なんでよばか。性悪か!」

「来週は,なんて言われたらくるしかないだろ。お前,次なにしたい?」

「うるさい…」



なんなの,なんなの!!

ようやく「はいはい」といいながら部屋を出ようとする彼。

私はその背中をじっと見つめていた。

と,突如止まる背中。

なんなのと文句を言おうと口を開いたとき,そいつは振り返る。



「…おはよ」

あと,ばかばかいいすぎ。





そいつはこれ以上ないくらい無邪気な笑みをこちらに向けた。

こいつはずっとずっと,精神年齢と年齢がそぐわってないのだ。

することも,いうことも,向ける笑顔も。

言動の全てがおかしい。

つまるとこ,やっぱりバカなのだと私は思った。

でも,それより先に。


 
「うるさいわ――! ~っばか!」
 


我慢していた右手が,枕を放り投げていた。

枕に背を押され,彼が部屋を出る。

反動で,自然に扉も閉まった。

いてーと声が聞こえるが,知ったことではない。

続いて「はやくしろよ~」とおちゃらけてのんきな声が聞こえてくる。

余計なお世話だと思った。



「……分かってるし。言われなくても…。」



私はきゅっと意識的に唇をかむ。

もうっ,本当に昔から…いつもいつもいつもいつも!



ー君は私の邪魔をする……!
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