冷酷な処刑人に一目で恋をして、殺されたはずなのに何故か時戻りしたけど、どうしても彼にまた会いたいと願った私を待つ終幕。
 これまでに彼にされた酷い仕打ちの数々を思い出し、顔を歪めて大きな音をさせてティーカップを置いた私に、婚約者だった王太子リチャードは優しく微笑んだ。

「いつも完璧な君が、そんなに焦っているなんて、珍しい。何か、気になることでも思い出した?」

 先ほどまでの緊迫し張りつめていた空気など、欠片も感じさせない。呑気な態度で、首を傾げた。

 パリッとした糊のきいた白いテーブルクロスを掛けられた丸テーブルで、数秒前まで冷たい石の床に座っていたはずの私は柔らかなクッションの敷かれた椅子に座っていた。

 正面に座っているのは、穏やかで優しい性格と誰もを虜にするような美しい容姿を持つ、この国の王太子リチャード・ヴァイスキルヘン。

 運命の女性と恋に落ちて、彼女への嫌がらせの冤罪だと泣いて否定した私を、容赦なく死に追いやったその人。

 ……そうだった。

 彼女が現れる前の彼は、こんな風に穏やかで陽だまりの似合う人だったわ。その後の……あまりの変貌に、すっかり忘れていたけど。

 とりあえず。殺されたはずの私が、今この場所に居る意味を、全く理解出来ていない。落ち着こうと、大きく深呼吸した。
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