不協和音ラプソディ
何年もあたためていた新曲を出したらしく、丁寧な言葉遣いでインタビューに答えているらしい浬は、やっぱり、私の知らないヒトだ。
スクリーンに表示されていたテロップの文字を目だけで追っていた私は、軽く心の準備をしてから、ようやく両耳を塞いでいたイヤフォンを外した。
『書こう、と決めた日から、納得のいくものが仕上がるまでに何年もかかりましたねー。柄にもなく、鍵付きの引き出しで保管とかしちゃって』
あの頃と唯一、ほとんど変わらない浬の声。
BGMとして流れている新曲のイントロは、少しハスキーな浬の声に似て、なんだか懐かしかった。
『素直じゃない人、不器用な人にこそ聞いてほしい。そしてこの曲を反面教師にしてもらえたら、何よりかなと。…しあわせを願って』
浬のひと言を合図にしてヴォリュームをあげたその曲に、雑踏の中で目を閉じてみる。
一音たりともこぼしたくないと思ったのは、この曲に込めた浬の想いが、昔の私達に少し重なったからかもしれない。
お互いに不器用で、素直じゃなくて、大事なことこそ自分の中に留めていた、あの頃の私達。
考えすぎて、迷って、結局、相手が求めていないものばかりを与え合い、傷つけ合っていた時間のほうが、きっと長かった。
それは、別れる瞬間の、最後の最後まで。