不協和音ラプソディ
『…杏はさ、私のために音楽を選んでよ、とか、言わなねーの?』
『逆になんでいうと思ったの?浬から音楽を奪ったら、それはもう浬じゃないよ。
…そんなこと、言える女(ヒト)選んだらダメだよ』
『最後まで、かわいくねーな』
『大丈夫、最後まで、浬も負けてない』
『…ったく、なんの大丈夫だよ』
歪みがかったギターのシンプルなリフと、直接胸に響いてくるようなベースやドラム、そして、ハスキーな浬の真っ直ぐな歌声を全身で受け止めながら、別れの直前の会話を思い出して、思わず笑った。
この曲には笑うポイントなんてひとつもないのに、それでも笑ってしまった。
だって、最後くらい、素直にキモチを伝え合えばよかったのに。やさしい言葉をかけあって、好きだと、ただ、たったひと言を伝えればいいのに、…余計なことばっかり。
ほんと、バカだなぁ。
バカみたいに素直じゃない。
それなのに、曲の中にいる浬はやけに素直で、飾り気がなく真っ直ぐに、選び抜かれた言葉を音に乗せて紡ぐ。
浬に似つかわしくないストレートさに、どうしてか目頭が熱くなる。
別にこれが、あの頃を想ってつくられた曲って決まった訳ではないけど。
『素直じゃない人、不器用な人にこそ聞いてほしい。そしてこの曲を反面教師にしてもらえたら、何よりかなと。…しあわせを願って』
そんな風に浬に願われてつくられた曲が、この曲でよかった。