不協和音ラプソディ
目尻に溜まった涙が一筋こぼれる前に指ですくって、大型ヴィジョンに映る浬へカメラのピントを合わせる。
スマートフォンでも随分と躍動感のある写真が撮れたことに満足をして、SNSの音楽アカウントに音付きでアップをした。
《 すきだと、素直に言える人が増えますよーに 》
趣味ではじめた音楽アカウントは、意外にも反響をもらうことが多く、3年経った今では数万人のフォロワーがいる。そのフォロワーにこの曲が響いて拡散してくれたらと、強い期待を込めて。
すぐに何件かいいねの反応が届いたことに口角をあげると、ようやく、渋谷のスクランブル交差点の横断歩道を渡る準備ができた気分になる。
「あ、VENTの新曲じゃない?
なんかこの真っ直ぐな感じ、いいね!」
「わかる!ただ好きだって一言聞きたいだけなのに、って気持ちが伝わってきて、胸を鷲掴みにされる!」
「大事なことほど言えなくて、要らないことばっかり言っちゃうんだよねー」
私のすぐ横にやってきた女子大生の反応に、純粋な嬉しさと誇らしさを感じて、そんな自分に、私も随分と変わったな、と思う。