不協和音ラプソディ
7つ年上の浬かいりとは、私が働くミュージックバーで出会った。
大学生に入ってはじめたそのバイトは、単純に稼げるから。そして人より、音楽がすきだと思えていたから選んだ。それだけのことだったのに。
私の運命は、そこで動いてしまったらしい。
まるで、前触れのないカミナリのように。
浬は、演者として私の前にやってきて、なんの音も鳴らさぬまま、私の心に衝撃をおとした。
フロアより一段高くなった、ステージと呼ばれる場所に浬が立った、それだけのことで、他とは何かが、大きく違っていたのだ。
それを、カリスマ性と呼ぶのか、一目惚れと呼ぶのかは、19年しか生きていない私には、未だにわからないのだけど。
「さっきはどーも。
あまりにも真剣に聞いてくれてるから、思わずギターコード間違えそうになったわ。目力つよすぎな」
息をするのも忘れて全神経を向けていた彼が、数分後に、近所で遭遇した友人のように片手をあげて声をかけてきた、あのとき。
頭の中で、警報サイレンが鳴りはじめたのには気づいていた。
迎え入れた先になにが待っているのか。
オトナ、の仲間入りはさせてもらえないけど、でももう少女でもない私は、わかってた。
それでも。
ステージ上の浬からはみつけられなかった、フラットさや、こなれた髭には似つかわしくない人懐っこい笑顔に、なんでもいいかと思ってしまった。どうにでもなれと。
杞憂かもしれない警報に自分を守ることよりも、浬のことを知りたいという欲望が、勝ってしまった。
だって数分前には、世界線の違いが鮮明にみえていた人。
そんな人が、特別遠い人ではないのかもしれないと思ってしまったら、仕方がない。
言い訳は、いくらだって並べられた。