不協和音ラプソディ
「名前、杏あんっていうのか。かわいいな。かわいいけど、杏とか杏ちゃんだと定番すぎるからなー。誰も呼ばないのってなに?」
「なんですか。マイノリティ愛好家なんですか。誰にも呼ばれてないのに、さらっと候補なんて出てきませんよ」
「あ、わかった。出てきたわ。
あんず。あんずにしよう。あまそうでかわいい」
「あまそうだからかわいいってイコールなの意味わからないですし、なんで決定事項なんですか。私は許可してません」
知られていなかった名前を明かしてから、ブレーキを持たずに縮まっていく距離。
せめてもの悪あがきで、強めに返してみる理性たちは、軽快に翻弄されていく。
「よくない?俺はすきだよ、あんず」
その好きは、呼び名に対する浬の好みで、フィット感がしっくりくるという意味での、すき。
頭ではわかっていても、一目で心を囚われてしまった人の口から発せられるすきの威力は、凄まじくて。
落ち着いたオトナの包容力と、少年のような無邪気さを覗かせる声や、いたずらめいた表情に、思わず、それは一体どういうつもりの好きなのかと、問いただしたくなったのをよく覚えてる。