不協和音ラプソディ
「もうさ、うちくれば?」
「えっ、」
「そんなびびんなくても、あんずには手出さないから安心しろって。もう終電ないし、雨の中1人で返すのもあれだし。うち、歩いてすぐだからさ」
バーが営業を終えたあとも、残ってふたりで話すようになって少し。
いつもは始発の時間まで、他愛のない話をして過ごすのに、珍しくあくびを繰り返す私をみて、浬がそんなことを言った。
久しぶりに一限から参加したせいで、足りてなかった睡眠が、今になって襲ってきていたのは確かなんだけど。そんな睡魔も、一気にさめる。
「私には、ってなに。どうせ浬からみたらお子ちゃまなんでしょーけど。同世代からしたら、ちゃんと女だよ、私も」
私には手を出さない、ということは、私以外の女には迷わず手を出すのかと、思っても聞けなかった。
聞けない代わりに、異性として認められていないことが悔しくて、吐き出した不満。
グラスの中で、純粋な煌めきをみせるジンジャーエールが憎らしくなって、カランと、かっこつけて氷の音を鳴らしてみても、浬との年齢差は縮まらない。
きっと飲めるはずのアルコールだって、未成年だという理由で、浬は私に1滴だって許してくれないし、未だに、妹的な扱いは抜けないのだ。
敬語からタメ口で話せるようになったって、なんの意味もない。
もう子どもじゃないのに。なんで、こんな小さな理由で不貞腐れてしまうんだろう。