不協和音ラプソディ
突然、浬が裏方にまわった秋頃には、浬に一体何があってそんな決断をしたのか、その理由の検討もつけられないほど、私達の心には距離ができていた。
「他人の音楽、ね」
「おー、自分じゃ扱えない音が使えるんだよ。
いくらでも幅が広がる」
裏方にまわることを、他のファンと同じタイミングで知ったことも。事前に一切話してくれなかったことも。浬にとって、私という存在がどういうものかを示しているようで、痛い。
パソコン作業の片手間に話すことが増えた浬とは、私がいくら見つめたって、目が合うことはなくて。
それでも、他人の音楽をつくる方がたのしいと話す浬の表情は、伏し目がちで、内容に似つかわしくないことは、わかる。
出会った頃、ステージの上で、観客の視線を独り占めしながら、自信と余裕たっぷりに口角をあげている浬の方が、絶対的にたのしそうだったと、思う。
そう、思うのに。
ただのファンでしかないらしい私は、何も言えない。
もしもちゃんと、彼女だったのなら、違う向き合い方ができたかもしれないのに。
うまくいっている時は、意味すらないと思っていた肩書き。
ただ、もらわなかった、もらえなかった言葉ひとつ、関係ひとつが、浬の弱さに触れられない理由になるなんて。
しあわせな過去に、私が軽んじてきたコトの重さを、こんなカタチで思い知りたくなんかなかったのに。