ずるい恋心
雅之
「門倉くん、娘が喜んでいたよ。これからよろしく頼むな。別に婿入りしなくてもいいから。」

3日後、偶然廊下で会った常務にニコニコ顔で肩を叩かれ、すっかりその気になられている事に気がついた。

まずい、まずい……まずい。

すぐに課内を探して吉川を会議室に呼び出した。

「あのね、吉川さん。」

「雅之さん…これって『会議室で』って期待してるいいのですか?」

頬を染め、すっか勘違いしている吉川になんと言って納得してもらったらいいのだろう。

普段の仕事のようにうまく立ち回れないのは、断った後の自分の処遇と何も知らないうちに巻き添えになってしまう彼女のことが頭をよぎるせいだろうか。

「それで父が、早いうちに両家の顔合わせと式場の予約をした方がいいって言ってました。どうしましょうか。」

「ちょ、ちょっと待ってくれないか。俺はまだ君と結婚するとは言ってないし……もともと付き合う気もなかったし。」

その一言にみるみるうちに大粒の涙が出てくる吉川に困ってしまう。

「ご、めんな…さい…」

走って会議室を出て行く吉川を見ていた人間が何人もいて、しかもその後に俺が部屋から出てくるのを見られているとは思っていなかった。

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