君がいた街
「なんだ、最初は、怖がっていたくせに」
リイは面白そうに笑った。
その、笑顔を崩さないままに、
「父が、そなたに、話、聞いてやれなくて悪かったって言っていた。せいぜい好きに生きろって。
そしてこれはアタシから。
そなたの贈り物、嬉しかったぞ、ありがたく貰ってく」
「え…──あ!」
ポケットを探り、いつの間にかなくなっていたものに気づく。
家に誰か、もしいたら、植えてもらおうと思った小さな球根。
故郷にも同じ花が咲いていたと、懐かしくなって少し譲って貰って来たもの。
知らぬ間にそれはリイの手のひらに、ちょこんと乗っていた。
「さよなら、アルド」
認めたくなんかない、だけど。
リイの後ろの景色さえわかるようになってきて、さすがにもう、目の錯覚なんて言い訳はできやしない。
「リイ──…」
呼び掛けに応えるかのように、彼女はこちらを見ると優しく微笑んだ──。