君がいた街
案の定。
俺の家は、原形をとどめないほどに崩れ落ちていた。
「ま、仕方ねぇか」
微かに嘲笑が漏れる。自分の家は大丈夫かもしれない、なんて、淡い期待を抱いた俺は、ただの馬鹿だ。
大丈夫なはず、ないのに。
20年前、家を飛び出し、世界中を放浪していた俺だけど、風の便りというやつで、故郷とその隣町が、戦争していたことは知っていた。
勝ち負けなんて知らなかったけど、この様子を見れば、そんなの一目で判る。
人の気配もない、“死”という文字が似合うような、灰色の世界。
綺麗な……俺の見てきた世界中のどこよりも、綺麗な場所だった。
それらはもはや、思い出のなかに残るのみ。
両親は、この街で暮らしていた皆は、どうしているのだろう、どうなってしまったのだろう。
疑問を、不安を、押し殺すように、そっと優しく、家の残骸に触れた。