君がいた街
「アタシには、歳の離れた腹違いの兄がいたんだ」
静かに、そっと、歌でも紡ぐように。
リイが話し出して、俺は姿勢をただした。
「だけど、兄は、アタシが生まれる1年前に、家を出ていってしまって。
ただ話を聞いてただけで、一度も会ったことはない。
別に会いたいわけでもなかった、だけど。
父が、最期に謝りたかったって、言ったの、アタシだけが聞いてしまって。
伝えなきゃ、と思った。
……そなた」
まっすぐに、リイの視線が、俺をとらえる。
「名前、聞いてなかったが。
アルド。違うか」
「リイ……」