秘密の癒しチートがバレたら、女嫌い王太子の専属女官(※その実態はお妃候補)に任命されました!
第一章
レースのカーテンから柔らかに春の日差しが注ぐ。白を基調にした室内は明るく広々として、とても居心地がいい。
王都の中心部から三キロほど東の高台に建つ瀟洒な洋館には、今日もゆったりとした時間が流れていた。
そんなお気に入りの屋敷の自室で、私はシンプルなワンピースに身を包み、緩くウェーブした栗色の髪を後ろでひとつに束ね、マホガニーの文机に向かっていた。私の装いは年頃の貴族令嬢と考えるとあり得ないほど質素だが、もともと華美に着飾るのは馴染まないし、市井を回るにもこの方がいろいろと都合がよかった。
淑女にはほど遠い短い爪の少し荒れた指先で、パラリ、パラリと借り物の本を捲る。本には高名な死生学者の高説が綴られており、やっとのことで半分ほどまで読んだところだった。
「なーにが『死に際し、人は皆、清らかな存在になって天に昇っていく』よ。嘘八百もいいところね」
飽き飽きしつつなんとかここまで読み進めていたけれど、この一節を目にした瞬間、一気に心が白んだ。