秘密の癒しチートがバレたら、女嫌い王太子の専属女官(※その実態はお妃候補)に任命されました!
 専属女官という名の妃候補として召し上げることは譲れない。しかし、精一杯の譲歩で『望む時はいつでも自宅に戻っていい』と告げた。彼女は驚いたように俺を見て、次いではにかみながら小さく『ありがとう』と口にした。
 彼女が俺から視線を逸らした後も、眩い笑みの残像がいつまでも脳裏に残っていた──。

 俺は束の間の回想から意識を戻し、自室の壁に掛けられた精緻な金細工が施された時計を見上げる。
 約束の刻限までは、まだかなり余裕があったのだが……。
「さて、そろそろ行ってみるか」
 メイサを迎え入れるための準備は、既に万端だった。
 俺はメイサを出迎えるべく、軽い足取りで自室を後にして玄関に向かった。

***

 私は普段より幾分洒落たワンピースに身を包み、鍼灸道具一式と必要最低限の身の回りの物が入った鞄を手に、白亜の王宮を見上げていた。
「もしかして私、悪夢でも見ているのかしら?」
 ポツリとつぶやいてから、緩く首を振った。
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