秘密の癒しチートがバレたら、女嫌い王太子の専属女官(※その実態はお妃候補)に任命されました!
 ……いいや。アズフィール様の脅し文句も、魔王様も裸足で逃げ出す黒すぎる笑顔も、夢幻なんかじゃない。あれは、紛うことない現実だ。
 それにしたって、怪訝なのは祖父母──特に祖母の態度だ。きっと祖父母は私の王宮行きを反対してくれるに違いない。あわよくば、王宮行きを頓挫させてくれるんじゃないかと思っていた。
 それがなんで、お祖母ちゃんってば『何事も経験よ。ぜひ、行ってみるべきだわ』なんて言って、心配そうなお祖父ちゃんを言い含めちゃうのよ……。
「ハァ。……言っても無駄だ。お祖母ちゃんって、淑女然としたあの見た目でけっこうな女傑なんだもの」
 昔からお祖母ちゃんが『こう』と言ったら、お祖父ちゃんも私も絶対に逆らえないのだ。仕方ない……。
 私は進むのを拒むかのように重たい足と、ともすれば尻尾を巻いて逃げ出してしまいそうになる心を叱咤して、来訪の事由を伝えるべく正門の両端に立つ門番に歩み寄った。
「メイサ」
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