秘密の癒しチートがバレたら、女嫌い王太子の専属女官(※その実態はお妃候補)に任命されました!
「メイサ、嫌な思いをさせてしまい、本当にすまない」
 俺はその曲でのダンスを見送り、メイサに向き直って詫びを伝えた。
 メイサは緩く首を振って微笑んだ。
「謝らないで。アズフィール様のせいじゃないわ。それに私、彼女の言葉にちっとも傷ついていないのよ」
 あんな侮辱の言葉を投げつけられて傷つかないなど、そんなわけがあるか……喉まで出かかった言葉をのみ込んだ俺を見て、メイサが続ける。
「ふふっ、信じられないって顔ね。……ねぇ、アズフィール様。私はね、母が世間に許されない祝福されない関係でも構わないと思えるくらい、私の父である男性を深く愛し、その愛を貫いて子までなしたのだとしたら羨ましいの。人生は一度きりよ。その人生でそんなにも誰かを深く愛せたなら、それはなんて幸せなことだろう。母の人生は短かったけれど、きっと幸せな一生を送れたのだわ。そう思うと、嬉しくもある」
 落とした照明の下でそう言って微笑むメイサは、なんともいえず儚げで、今にも消えてしまうんじゃないかと恐怖した。
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