秘密の癒しチートがバレたら、女嫌い王太子の専属女官(※その実態はお妃候補)に任命されました!
 泉の下は、建物と同じ石材。特に壁泉などがあるわけでもなく、吐水口にあたる部分が見あたらない。しかし泉は涸れることなく、今も澄んだ水を湛えていた。
 ……なるほどな。これはたしかに女神エイルの祝福だな。
「女神エイル、私はエイル神聖王国の第一王子アズフィール・フォン・エイルです。立太子の礼に際し、祝福の水をいただいてまいります」
 俺は敬意を込めて女神の石像に片膝を突いて礼を取り、懐に忍ばせていた小瓶をそっと秘泉に沈ませた。
 小瓶からコポコポを小気味いい音と共に空気が抜け、代わりに中を澄んだ水が満たしていった。
「女神エイル。俺は遠からず、あなたからもうひとつの祝福──メイサをもらいます。俺の一生涯をかけて彼女を愛し、必ず幸せにしてみせます」
 秘泉の水を無事に汲み終えた俺は、女神エイルに宣言した。
 当然、石像の女神がそれに答えるべくもない。けれど俺が告げた瞬間、女神が表情をほんの僅かに綻ばせたように感じたのは果たして俺の気のせいなのか。
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