秘密の癒しチートがバレたら、女嫌い王太子の専属女官(※その実態はお妃候補)に任命されました!
 昨日も足場の悪い中で手を繋いだり、体を密着させてアポロンに乗ったりしていたけれど、こんなふうに明確な意図を持って抱きしめられるのは初めてのこと。すっぽりと私を包んでしまう長身と私よりも少し高い体温、鍛え上げられた厚い胸板、私とは違う男らしい彼の匂いがどうしようもなく私をドキドキさせて、まともに物を考えることができない。
「これで儀式の成功は間違いないな」
 アズフィール様は戸惑う私の耳もとで囁くと、スッと抱擁を解いた。
 私は耳まで真っ赤で、今にも顔から火が出そうだった。アズフィール様はそんな私の様子を見下ろし、やわらかにグリーンの瞳を細めた。
「今夜は午後九時に。部屋で待っている」
「わかったわ。ラベンダーのお灸を用意していくわ」
「では、いってくる」
 アズフィール様は最後に私の髪を愛しげにひと撫でし、まばゆい微笑みを残し颯爽と部屋を出ていった。
 パタンと扉が閉まった瞬間、私は火照りが収まらない頬を押さえ、へなへなとその場にしゃがみ込んだ。
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