秘密の癒しチートがバレたら、女嫌い王太子の専属女官(※その実態はお妃候補)に任命されました!
 状況を把握しようと、体をずらす。すると、アズフィール様の背中越しに、大きな荷物を前に突き出すようにして立つイザベラ様の姿が見えた。
 ……なに? 目を細め、イザベラ様が手にした物を認めた瞬間──。
「ヒッ!」
 私は咄嗟に悲鳴をのみこんだ。
 イザベラ様は右手で火薬と思しき黒っぽい粉が大量に入った袋を掴み、左手には炎石を持っていた。
「姉上、あなたは何故そうまで王位に固執するのです? 王位はあなたの人生に幸福を約束するものではない。王にならなくとも──」
「黙りなさい!」
 イザベラ様は髪を振り乱し、悪鬼のような顔でアズフィールの言葉を遮った。その目はギラギラと血走っており、彼女が漂わせる異様なほどの怒りの波動に、息が詰まった。
「そうやってお前は、何食わぬ顔をして私からすべて奪っていく」
「奪う?」
「両親の関心も、将来の王の座もお前が横からかすめ取っていった……!」
 イザベラ様はアズフィール様に怨嗟の叫びをぶつける。
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