通り雨、閃々
9. 期待
リョウの痩せた指が、器用に餃子を包んでいく。
「……リョウ、慣れてるね」
「いや、初めてだよ」
「それにしては上手じゃない?」
「不器用ではないよ」
過去に何度か経験あるはずの私の方は、もたもたとひだを寄せた。
「ミクちゃんってさぁ――」
「言わなくていい!」
リョウは口の端を持ち上げて、言い方を変えた。
「小学生のとき、なんとかって刺繍にハマってたって言ってなかった?」
「刺繍は根性。不器用でもできる」
「俺、『不器用』なんて言ってないけど?」
ひと月近く、ドアに鍵が差さっていなかった。
何度かそっとドアノブを回してみたけれど開かなかった。
夜になっても部屋の灯りがついていなかったから、どこかへ出かけていたのかもしれない。
久しぶりに鍵が差さっていて、少し緊張しながら部屋に入ると、リョウは昨日の続きのように、餃子包むの手伝って、とタネの入ったボウルを押しつけてきた。
態度も何もひと月前と変わっていないけれど、痩せたし、髪の根元が黒くなっている。
同じ規格に包まれた餃子を、リョウはまたひとつお皿に乗せた。
その隣に、私も包みを乗せる。
リョウが目の端で、はみ出たニラを見た。
「味は一緒だから」
「俺、何も言ってないって」
キッチンに立ちっぱなしで三十分以上餃子を包んでいると、さすがに身体のあちこちが痛くなってきた。
「お腹すいたぁ」
首をぐりぐり回しながら言うと、
「出来た分先に焼こうか」
とリョウがフライパンに火を入れる。
スマホで焼き方を確認しながら、ぐるりと円形に並べ、水を入れて蓋をする。
油の跳ねる音が蓋の内側でこもっている。