通り雨、閃々
言葉通り、まもなく玄関の鍵が回る音がした。
今壊れているドアの中央には10cm幅のガラス窓が縦長についていて玄関の様子が見える。

玄関ドアを開けて、リョウが入ってきた。
濃いピンク色のニットとカモフラージュ柄のパンツ。
そして玄関灯の下でも黒々とした髪。
入ってきた瞬間から真っ直ぐに私を見つめるリョウは珍しく真剣な表情で、やさしくガラス窓に触れる。

「大丈夫?……なわけないよね」

私は息が詰まって何も答えることができなかった。

「ああ、本当だ。開かない」

何度もドアレバーを回して、隙間を覗き込んで、リョウは真剣な眼差しをドアに向ける。

「これは蹴ったところで開きそうもないね。ガラス割ってもこの幅じゃ通れないか……。大家さんには連絡した?」

「不動産屋さんはお休みで」

「不動産屋じゃなくて、直接大家さんの携帯」

「番号知らない」

「じゃあ、今から教えるから掛けてみて」

大家さんは穏やかそうなおばあちゃんで、閉じ込められたと知ったら私以上に慌てて「すぐに業者さんに連絡する」と言ってくれた。
その間にリョウは、「ドアレバー分解したらどうかな?」と工具セットを持ってきて作業をしている。

「ごめん。ありがと」

「まだ開いてないよ」

「ちがう。来てくれてありがとう」

ガラス窓から、リョウのおどけるような笑顔が覗く。

「珍しい。ミクちゃんが素直」

私は口を尖らせて、ドアに背を向けて座った。

「大丈夫。なんとかする」

「なんとか、って?」

「どうしても業者捕まらなかったら、ホームセンター行ってくる。金属切れるやつ、何かあると思うから」

やはり鍵屋は営業時間前だったらしく、大家さんも少し苦労したようだが、無事に手配してもらえた。
もう少ししたらそちらの方から連絡が来るらしい。

「ごめん。開かなかったね」

リョウと私、双方からドアレバーを外した結果、ドアには穴が開いたが、ラッチボルトはドアが開いた状態でないと外れないようだった。
穴の中には、私たちを隔てるように太い金属が横たわっている。

「ううん。大家さんの連絡先教えてくれて助かった」

「それだけか。俺、しょうもないな」
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