通り雨、閃々
誰かを手に入れるって、どういうことだろう。
浮き出た鎖骨を見るたびに、そんなことを考えた。
ため息が出るほど綺麗な鎖骨は、ため息が届くほど近くにあって、明るくなってもまだ寝息を立てている。指先で右の鎖骨をなぞった。
薄い皮膚の下で、それはゆるやかなカーブを描きながら肩まで伸びている。
いったい何をどうしたら、こんなに見事な形になるのだろう。
肩にある小さなホクロに触れると身動いだので、私はベッドを抜け出て床に落ちていた下着を拾う。
「帰っちゃうの? さみしー」
リョウはいつも、半分微笑みを混ぜた声で話す。
名残惜しげな口振りではあるが、口振りだけだ。
だから私は返事をしない。
リョウが返事を求めてくることもない。
この男が何かを求めることなどなく、私に手を伸ばすのは、道端で配られていたポケットティッシュを受け取ることと変わらないのだと思っていた。
「いってらっしゃーい。またね」
私は無言のまま服を着て、ふり返ることなく部屋を出た。
次の約束も、薄っぺらい恋愛ごっこも、リョウは呼吸するより容易く口にする。
あくび混じりに告げられるそれらを真に受けるほど能天気にはなれず、けれど高鳴る心臓を止められない。
こんな愚かな器官など、ナイフでくり抜いてカラスにでもくれてやりたい。
リョウと出会ってからの私が、私はとてもきらいだ。