不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす
「ずるいです」
そう口にすると、勝手に涙が浮かんだ。斗馬さんは焦ったように私の体を解放する。
「千帆?」
「私だけ、見つめていてほしかったのに……」
初めてのキスも処女も、許嫁の斗馬さんに捧げようとしていた私とは違い、斗馬さんはほかの女性とも経験がある。
だから、こんなにスムーズに私を押し倒せるに違いない。そう思うと悔しくて、鼻の奥がツンとする。
「私、お風呂に入ってきます」
体を起こし、斗馬さんの反応を待たずにソファから立ちあがる。
バスルームに繋がるドアを閉めると、ドアに背を預けて呟いた。
「斗馬さんのばか……」
素敵な思い出になるはずだった、彼との結婚式に、誓いのキス、新婚初夜。
そのどれもが黒く塗りつぶされてしまったように思えて、やはり簡単には彼を許せそうにないと、私は深いため息をついた。
翌日の夕方、斗馬さんと私はなんとなく気まずいまま、タクシーで新居である都心のタワーマンションへ帰った。
三十三階建ての建物で、私たちの家は三十階だ