不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす
なんとなく納得できなくて、斗馬さんの横顔を睨む。視線に気づいた斗馬さんは、小さく笑って小首を傾げた。
「キスのおねだりか?」
その微笑みがあまりに色っぽいものだから、自分の意思とは無関係に頬が熱くなり、心臓が暴れた。
この人、絶対に自分の魅力を理解してやっている。あざとい。あざとすぎる。
「違いますっ! なんでそうなるんですか!」
「違うのならそんな風に赤くなるな。俺を止めたいのなら、逆効果だぞ」
斗馬さんがボソッと囁き、身を屈める。目を閉じた彼の端正な顔が近づき、キスの雰囲気に流されそうになるが、なんとか自分を叱咤した。
そう何度も同じ手に引っかかるもんですか……!
私は唇の前に手をかざし、斗馬さんの唇を指先で受け止めた。異変を察知した斗馬さんは目を開け、私の指先を見て苦笑する。
「きみの防御の方が一歩速かったな」
「……私の唇は安くありませんから」
「わかっている。しかしいくらでも愛情を積んで、きっと取り戻してみせる。際限なくきみにキスできる権利をな」
斗馬さんがそう言って不敵に笑ったのと同時に、エレベーターが三十階に到着する。
彼に手を引かるまま歩きつつ、不覚にも胸はドキドキ騒いでいた。