不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす
妻の決心◆離婚阻止まで3日
新婚旅行より二週間前の、八月上旬の平日。残業を終えて会社を出たところで、若い女性に声を掛けられた。
「すみません、剣先斗馬さん……ですよね?」
年は二十代前半くらい、襟足が綺麗に内巻きになったボブヘアが印象的である。
一瞬訝しんだものの、街灯に照らされたその顔に見覚えがあったので、俺は即座に記憶をたどって彼女の顔を見つけ出す。
「もしかして、四年前の船上火災の被害に遭われた……」
「覚えていてくださったんですね。そうです、佐藤美鶴と申します。今、お時間大丈夫ですか? あの時にお礼を伝えられずにいたのが、ずっと気になっていて……」
彼女を気にかけていたのは、俺も同じ。立ち話もなんだからと近くの喫茶店に彼女を誘い、俺は改めて彼女に話を聞いた。
「体のお加減はいかがですか?」
「経過観察のための通院は必要なんですけど、ほとんど完治しています。それよりも、心のダメージの方が治らなくて、長い間家にこもりきりでした。事故直後、お見舞いに来てくださったのにお会いできなくてすみません」
「とんでもない。でも、こうして出歩けるようになったと言うことは、だいぶ回復されたのですね」