不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす

《指輪なんかよりも自分の身を案じろよと思うけど、美鶴にとってはそれだけあの指輪が大切だったんだな。俺なんかのために火傷まで負って……健気すぎて泣けてくるわ》

 ふっと笑って冗談めかす夕飛だが、微かに声が震えていた。泣けてくるというのも、あながち嘘ではないのだろう。

 本気で人を好きになると、自分の中に驚くほどたくさんの感情が湧く。

 俺自身も、千帆を愛することで毎日のように新しい感情と出会い、驚いてばかりだ。

 彼女がプールで男に付きまとわれた時は激しい嫉妬を覚えたし、水着のデザインを気にして落ち込む彼女はいじらしく、安心させてやりたいと思った。

 そして、ようやくこの手で彼女の肌に触れた時は、とてつもなく尊い感動を覚えるとともに、ますます千帆の存在が愛おしく感じられ、胸が詰まった。

 この手で、必ず彼女を幸せにしたい。

 許嫁だった頃より、結婚した直後より、今が一番、心の深いところで強くそう思う。

「そろそろいいか、夕飛。今、妻と旅行の最中なんだ」

 千帆はまだ寝ているとはいえ、ふたりきりの大切な時間であることに変わりない。

 ちらっと背後を振り返ると千帆はまだ目を閉じていて、そのかわいらしい寝顔に飽きもせず胸がときめいた。

< 145 / 172 >

この作品をシェア

pagetop