不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす
数えきれないほどのキス◇離婚しないと決めた日
タクシーで羽田に向かう間も、家を出る寸前に見た斗馬さんの表情が、頭から離れなかった。驚きと戸惑い、そして深い絶望を溶かした瞳を思い出すだけで、胸が握りつぶされたように痛くなる。
あんなやり方、言い逃げみたいで卑怯だったかな……。
悩んで悩んで悩み抜いて出した結論なのに、それが正しかったのかどうか、まったく自信がない。
でも、何食わぬ顔で彼との結婚生活を続けていくのも、そろそろ限界。精神安定剤代わりの甘い戯れも、次第にその裏に潜む切なさの方が大きくなった。
私たちはもう、夫婦でいられない。漠然とそう思い始めた時に二泊三日の宮崎出張の予定が入り、出発前に離婚の意思を告げようと決めた。
彼がどんな反応をしようと、出張の間は仕事に逃げていられる。そんな卑怯な考えがあったからだ。
複雑な思いを抱えて到着した、羽田空港の第一ターミナル。
出張に同行する予定の佐藤くんと出発ロビーで待ち合わせていたのだが、ロビーに到着直後、佐藤くんから電話があった。
風邪を引いたらしく、朝起きたら発熱していて咳も止まらないのだそうだ。